ナマエが勢いよく扉を開けて部屋に入って来た。
予想通り泣いている。
片手にはぐちゃぐちゃになった新聞。
あぁ、やっぱり見ちまったか。

「…サボ、」
「あいつ、捕まったらしいな」
「サボ!!」

なぜかナマエは物凄い形相でおれに近づいて来た。
驚いて身を引けば強い力で腕を掴まれる。
どうしたって言うんだ。
悲しんでるとは少し違う、いやかなり違うナマエの態度に困惑する。

「ど、どうしたナマエ」
「…思い出して」
「は?何を?」
「過去の記憶を思い出して!!」

いきなり何を言い出すかと思えば、記憶?
確かにおれは幼い頃の記憶はなく、ドラゴンさんに救ってもらった頃からがおれの始まりみたいなモンだ。
でも、何で今?

「いきなりどうしたんだよ、落ち着けって」
「お願い……サボ、どうしたら良いの……」
「だから何の話してるんだ」

とりあえずナマエをソファに座らせた。
でもしっかりおれの腕を掴んで離さないせいで、誰かを呼びに行くこともできない。
好きな男が処刑されると知って気が狂ったのか?

「サボ、エースは…」
「ああ、記事を読んだよ」
「違うの!エースはサボの、兄弟なの……!」
「………は?」


いやいやいや。
たしかにおれとナマエは姉弟的な関係だ。
だから姉の男にあたるエースはおれの兄でもあるんだとかそう言う事か?悲しめってことか?

意味が全く分からない。
ナマエの顔を覗き込むと今まで見た事がないほど混乱しているのが分かる。呼吸が荒いし涙がさっきから止まらない。やっぱり医務室に連れて行くべきか、そう思って立ちあがろうとしたら無理矢理隣に座らされた。

「ナマエ、おまえ大丈夫か…?」
「ねえ、本当に全然思い出せないの?5歳の時から一緒に海賊貯金してたでしょ?麦わらのルフィも…。ルフィはエースとサボにとって可愛い弟だったって……」

訳の分からないことを話すナマエが驚くほど熱いことに気がつく。構わずおでこを触る。

「ナマエ!すげぇ熱だ!とにかく休まねェと…」
「やだっ、サボ聞いて…!!」


とにかくこれはやばいかもしれない、と思って電伝虫でコアラに連絡した。おれはこれから会議で明日には別の任務で本部から出なきゃならない。今は別の人間に頼むしかない。

意識が朦朧としているのか視線がフラフラしているナマエをコアラと共にやって来た医療班に任せて会議に参加した。あとからナマエは投与された薬の影響で大人しく寝てくれたと報告を受けて、あえて黙って本部を出ることにした。
なぜかおれも動悸が酷い。
嫌な予感がするが、これが何に対してなのか分からない。

「サボ君、顔色悪いけど大丈夫?」
「…ああ」
「ナマエさんのことは任せて!任務頑張ってね」
「ありがとう。行ってくる」


おれとエースが兄弟?
麦わらのルフィが弟?
いったいナマエは何を言ってるんだろう。



____



完全に熱が下がったのは5日後だった。
サボは任務を終えて本部に戻って来ていて、何回か見舞いに来てくれた。
また私がおかしくなったと思われないように、どうにかサボの記憶を思い出してもらわないといけない。
エースから聞いた幼少期の思い出を何個も紙に書き出した。時系列はよくわからないが出会いから別れまではだいたい知っている。

早くしないとエースの処刑が執行してしまう。
その前に思い出してもらいたい。あわよくば救い出してくれないだろうかなんて都合の良い事を考えてしまう。出来ればサボと共に助けに行きたかった。


「サボ、話があるんだけど」
「体調は良いのか?」
「うん。大丈夫だよ」

仕事終わりに時間を作ってもらってエースから聞いた過去の話を伝えた。サボは終始難しい顔をしてそれを黙って聞いていたが、全くピンと来ないようだ。

「これ見て、エースの腕の刺青。このSのやつ、サボがよく使ってたサインだよね?エースがね、サボと一緒に冒険しようって思って入れたんだって」
「………」

友人からエースを調べてもらった時に入手した彼の写真。はっきりと映る刺青にサボはゴクリと唾を飲み込んだ。


「…なんで今まで黙ってたんだ」
「だって、どう説明して良いのか分からなくて…タイミングも失っちゃったし」
「悪いが全く思い出せねェな」
「そんな………」

仲間が手に入れてくれた麦わらのルフィの指名手配の写真を見せても駄目だった。もちろんエースの手配書も駄目。
いったいどうしたら良いんだろう。
このまま記憶は戻らないのだろうか。


「コルボ山で、3人で助け合って生きて、たまにルフィのおじいちゃんのガープにボコボコにされたって……」
「………」
「エース、サボが生きてたらおれと同じくらい強くて、変わらず頭が良いんだろうなって言ってた。この海のどっかで自由に生きてくれてたらいいなぁって………」

思い出して涙が溢れる。
私が泣くことに対して慣れていないサボは慌てふためく。

どうして良いのか分からない。
ただエースの処刑の日が刻一刻と迫っていた。









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