エースを想う度に胸の辺りがズキズキと痛み、子宮が熱く重くなる。私は最初、これが覇気による攻撃か何かだと勘違いするほどつらい痛みだった。
今なら分かる。
何でこの痛みがこんなにもつらいのか。
それだけエースのことを好きになってしまっているから。エースのことを愛しているから。




情事のあと、珍しくエースは気怠げにうつ伏せでベッドに埋もれていた。汗が冷えて身体に触れるととても冷たい。けれどその先にじわりと熱い体温がある。

「……昨日の夜から寝てねェから、ねみぃ」
「そうなの?」

昨日はたしか船で宴があったと言っていた。
朝まで続いたようだ。
それから仲間たちの武器探しに付き合わされたと愚痴を溢すが、その表情はなんとも楽しそうである。
白ひげ海賊団では末っ子らしいから、きっとみんなから存分に可愛がられているんだろう。


エースは基本的に夜営業時に来て朝まで泊まってくれる。お金を払ってもらうのは申し訳ないが「たった5日だから」と言われると私も言い返せない。

時刻は23時。
あと1時間すると一応の閉店時刻となる。そうすれば外の騒ぎも多少は落ち着くだろう。
うとうとしながら枕を抱くエースの背中を撫でる。
意外とつるりとしていた。
髪の毛はかため。量が多い。サボとはまた違う癖っ毛。

「ハッ」
「ん?……どした」
「エース!私、そういえばあなたの幼少期の話もっと聞きたかったの!」
「……へぇ?ようしょうき?弟の話か?」

弟の話がしたいのか、一瞬頭を持ち上げたが私が「ううん。違う」と言うとボスンとまた枕に戻ってしまった。

「んーーー、なんだよ」
「もう1人の、兄弟のこと。あまり聞かなかったから」
「………あぁ、サボね」
「そう、サ、サボ、」

エースの前でその名前を口にするとドキリとする。
そんな私を他所に眠そうにあくびをしながらエースはごろりと仰向けになった。

「…んー、あいつとは全然性格が違うのに、なんで仲良くなれたんだろうな」
「どんな人?」
「頭が良くて、世話焼きで、おれと同じくらい強くて、弟に甘くて………、、たまに眩しいような奴だった」

エースが両方の手で自分の顔を覆った。

「…貴族だったんだ。両親の元に無理矢理戻されて、でもそれが嫌で1人船で海に出た。でも、天竜人に船を沈められたんだ」
「…………嘘」
「それで死んだ。おれに弟を頼むって手紙を置いて」

私の知るサボはゴア王国付近の海でドラゴンさんが助けたと聞いている。なぜサボが死にそうな状態であったのかは誰も分からない。
私が独自で調べた結果、エースの育った島はまさにゴア王国だった。

エースは腕の刺青を撫でた。

「……このSはサボのマークなんだ。手紙とかに使ってた。島をでる時、死んだサボと一緒に旅するって決めた。だからこの刺青を掘ったんだ」
「!」

思い出した、昔のことを。
サボがまだ小さな時に「おれのサインだ!」と言って色々な書類や手紙にそのマークを書いていたこと。
Sにバツ印。
なんとなく思いついたから、と言ってしばらくそのサインを使っていて、子どもらしくて可愛いなぁと思っていた。いつの間にか使わなくなっていたからすっかり忘れていた。

エースのこの刺青を初めて見た時、懐かしさを感じたのはそのせいだ。だってこれはサボのサイン。

私の中でお互いのサボが同一人物であることがほぼ確定した。今すぐにでも2人を会わせたい。話したい。
けれど記憶喪失のままのサボと、サボが何年も前に死んだと思っているエースが会ってどうなる?

未だにサボは私の好きな人は誰なのかと怖い顔で探ってくるし、エースはエースでサボの話をすると不機嫌になってしまう。
きっと3人で顔を合わせて、私が説明したって2人は信じてくれない。なんならケンカが始まりそう。
2人がケンカなんてしたら私が止められる訳もない。


まだ話すのはやめておこう。
とりあえず、今はまだ………



「ねぇ、もしそのサボが生きてたらどんな感じかな」
「んーー…?おれと同じくらい強くて、前よりももっと頭が良くなってて、この海のどっかで自由に生きてくれてたらいいなぁ」
「……」

エースが優しく微笑んだ。

「あ、おれより身長たけぇのかな。それともめちゃくちゃ身長低かったりして。ははは」

サボは本当に強くて、頭が良くて、コアラに怒られながらも割と自由に生きているよ。
毎日楽しそうだよ。
身長はきっと同じくらいかな。今度ここに遊びに来た時、何センチあるのか聞いておくね。


言いたいことは山ほどあるけれど、私はそれを隠す。

「ねえエース、もっと話聞かせてよ」
「はぁ?まぁ、次な。今はねみぃから……」

そう言ってエースが私を布団の中に引きずり込む。あたたかく、そして彼の匂いに包まれると安心した。
こんなに心穏やかに眠りにつけるのは、エースが隣にいてくれる時だけだ。
おやすみのキスをしてから眠るエースをただただ眺めた。







back




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -