あっという間に時は流れ、とうとうナマエとエドガーがパーティーに潜入する日となってしまった。結局おれは言われた通りパーティー会場のホテルでウエイターとして紛れ込んだ。

ちなみにナマエが着ているパーティードレスはおれが選んだ。もちろん本人はその事を知らない。
コアラ経由で着てもらうことに成功した。それくらい許されるよな?
オーシャンブルーと淡い灰色のドレスを着て、普段しないような化粧を施したナマエは信じられないほど眩しく見えた。


ターゲットの側近2人を別室に上手く連れ出し力技でねじ伏せ(戦いに不向きそうな悪魔の実で良かった)そしてついでにターゲットの男を静かにぶん殴って気絶させておいた。

いくら嫌われていると知ってるとは言え、ナマエが知らない男と寝るのはやっぱり許せない。少しでも可能性を減らしておきたかった。

無線の電伝虫にエドガーから連絡が入る。

『あの…ターゲットの男が全く会場に現れないんですが、総長奴をどこかで見ませんでしたか?』
「あぁ、そいつなら今おれの足元で気絶してる」
『えぇ!?!?え、どうして…』
「近くにいたからついでにな。
目的の機密文書は奴の宿泊してる部屋だろ?7階の704号室だ。さっさと取って来い」
『わ、わかりました!』
「2人で行動すると目立つから、おまえ1人で行って来い」
『は、はい…』

よし、これでホテルの一室でナマエとエドガーが2人きりになる事もない。我ながら名案だった。そしてナマエのためによく働いた。
ターゲットとその側近たちがすぐに動かないようにロープで縛り、口はテープで塞いだ。ついでに目と耳も同じようにテープでぐるぐる巻きにして塞いでおいた。これでしばらくはバレないだろう。

もう先に帰ってしまおうか、なんて思いながら廊下を歩いていると、また電伝虫が鳴る。出てみればおれと同じくウエイターとして潜入していた同志だった。慌てた様子で何を言っているのかよくわからない。
落ち着け、と言うと今度は相手の言葉がハッキリと聞こえた。

『ナマエが知らない男に連れて行かれました!』


____


ウエイターに扮したサボ君は、それはもう素敵だった。
特殊メイクで顔の傷を消し、髪は綺麗にオールバック。いつもとは違う真っ黒なスーツを見事に着こなしていた。
ああ、やっぱり好き。諦められない。
なんてぼんやり考えながら彼とは集合場所で一旦別れ、私はエドガーと共に偽名を使って正面玄関から堂々と侵入した。
愛人役のエドガーに腰を抱かれて会場内で周りを注意深く観察していると、なんだか妙に気に触る視線を感じた。キョロキョロしてみるが自分を見ている人はいない。何だか気味が悪い。

「ナマエ、どうした?」
「…なんだが視線を感じて」
「そりゃナマエは綺麗だからな!誰かがどっかで見つめてるんだろ」

エドガーはそう言って笑うが、何か違う気がした。
思わず彼の腰に回した腕に力を入れると「怖いのか?…一応用意してある俺たちの部屋に行って休憩するか?」なんてエドガーが言い出すが、大丈夫だと笑って誤魔化した。


なかなかターゲットは現れず気を揉んでいるとエドガーがサボ君に連絡を取ってくれた。なんとターゲットはサボ君によって倒されてしまったらしい。
私があの日、彼とペアになるのを否定したのを根に持っているのかもしれない。自分にだって隠密行動は出来るんだぞという彼から怒りのメッセージかも。考えすぎだろうか。

エドガーが1人で行ってくると言って、私を置いて会場を出て行ってしまった。ちょうど良い、誰か有名な悪党はいないものか。
シャンパン片手にふらりと場所を移動しようとすると、突然後ろから強い力で手を引っ張られた。勢いのまま後ろに倒れそうになったが、抱きかかえるようにように私を支えてくれる人物。驚いて振り向き、そして一瞬にして頭の中が真っ白になった。

「久しぶりだな、ナマエ」
「……嘘」

そこに立っていたのは私が娼婦をしていた時のオーナーだった。
何年も経っているのに、一瞬で分かった。見た目はあの頃より老け込んでいるが間違いない。私の体が、本能が反応している。

「こんなところで何をしてるんだ?あの革命軍に攻め込まれた夜、行方不明になったおまえを俺は探してたんだぞ」
「………」
「まさかこんな所で出会うなんてな」

それはこっちの台詞だ。
でも、たしかに目の前にいる男は人身売買で生計を立てているような最低な男だった。このパーティーに参加していてもおかしくはない。

私はこの男に買われて娼婦になったのだが、私のことを育てたのもこの男だ。

私はこの男に飼われていた。
最初の頃、反抗的だった私は地下室に監禁された。逃げないように首輪をはめられ、犬と同じように鎖に繋がれた。食事はちゃんとしていたが、寝る場所は床だったし毛布一枚のみで寒かった。
そして娼婦になる勉強だと言われて毎日のように抱かれた。今思い返せば最初は気持ち悪くて痛くて怖くて、本当に嫌だったな。いつの間にか私は感情を無くす技を身につけて、そしてあっという間に店に立たされた。

稼いだ金は全て男に奪われた。
逃げ場がなくて、自分の現状を受け入れるしかない日々。その時に現れたのが革命軍だったのだ。

忘れかけていた過去の記憶がどんどん蘇ってくる。あんなに平気だったはずのセックスが、想像しただけで怖くて吐きそうだ。

「顔色が悪いぞ、ナマエ」
「…」

声が出ない。
あの頃の恐怖心を思い出してしまった私の体は全く動くことができない。ただ震えて男を見ることしかできないのは、目を逸らすと殴られた記憶が蘇ってしまったから。

口答えしちゃいけない。
目を逸らしちゃいけない。
言うことを聞かないと殴られる…………


「さっきの男は恋人か?」
「……違います、」
「なら良かった。さ、帰ろうか」
「………え、」
「おまえの家は、俺の元だろう」
「……」
「おまえは俺に買われたんだぞ?」
「……は、はい」

体が言うことを聞かない。
逃げなきゃ、どうしよう…!誰か助けて………

頭の中ではそう思えているのに体はなぜか思うように動かず、男に差し出された手を取った。そして当たり前のように手を引かれ、歩き出す。

「このホテルに部屋を取ってあるんだ。久しぶりにナマエを抱きたい」
「…………」

やだ、どうしよう。
そんなの嫌だ…!怖い…!!

涙がボロボロ溢れるのに私の足は止まらない。
当たり前のように男のあとを着いて行った。








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