※現パロ




我が社の営業たちの仕事量が多すぎる。そろそろ過労死する人間が現れるかもしれない。対策として営業補佐を配属しよう。

と言う話が出ていることは知っていた。でも経理の私には全く関係のない事だと思って、特に気にせず日々の業務に追われていたのに。

「ナマエ、営業補佐なんだが君に任せたいんだ」

経理課長に呼び出されてビクビクしていれば、なんと私が営業補佐として選ばれたらしい。推薦があった、と言われたが、一体誰が私を推薦したのかは教えてもらえなかった。



そして、私が経理から営業補佐へ異動して3ヶ月が経つ。
他にも求人を出して採用された年下の男の子も一緒だ。営業6人に対して補佐2人。それはもう毎日嵐のような忙しさだ。元々経理をしていたから、社内の流れや仕組みは分かっているおかげで、やっと着いて行けている感じがする。

もう1人の営業補佐の男の子、チャーリーは入社したばかりだから、必然的に私が色々教えてあげる立場になっている。

それは良い。
それは良いんだけど、私には今とてつもなく悩んでいる事がある。仕事内容とかじゃない。



「ナマエ、これやるよ」
「えっ!あ、ありがとうございます、サボさん」

隣の席の営業マン、サボさんは社内で知らない人は居ないほどの有名人である。なんせ顔が良いし性格も良いし、おまけに営業成績もNo.2を維持している。営業部長に次ぐNo.2。私とそんなに歳も違わない程若いのに。
そんな人がモテない訳はなく、異動して隣が彼だと知った時、絶望した。
私は女社員の目の敵にされるんじゃないだろうかと。

それでも実際に働き出してみると、サボさんと付き合っているのではないか?と噂されている営業のコアラさんが居るおかげか、妬みや嫌がらせ等は今のところ受けていない。


私の悩み、それはサボさん本人の態度だ。

言い方が悪いが気安く話しかけてくるし、なんだか距離感がおかしい。
それは私だけに限った事ではない。
どうやら営業の方々はみんな仲良しなようで、年齢や勤務年数に囚われず和気藹々としている。経理部は女性ばかりで殺伐としていたから、何だかこの営業部の雰囲気に慣れない。

特にサボさんみたいな、まるで王子様のような知り合いは居ないものだから、彼に距離を詰められるとド緊張してしまう。ひえ!話しかけないで!と思っても、それは無理な話だ。だって隣だし。私は彼を補佐する役割な訳で。


今だって彼はお昼ご飯を買いにカフェに行き、なぜか私にチョコレート菓子を買って来てくれた。もちろん頼んでない。ありがたい、でも申し訳ない気持ちになる。
私は一体どうしたら…。
お返ししたら良いのだろうけど、補佐の私は営業みたいに外に出る事はないのだ。経理の時は銀行に行ったりしていたけれど、今は社内の一室に引き篭もり中の身。
だからと言ってわざわざ仕事終わりにお菓子を買いに行って、翌日渡す程の物を貰ってる訳でもない。

あと普通にかっこいい。毎日彼にはキラキラしたエフェクトが掛かって見えている。少し話すだけで、彼がちょっと動いただけで、私はドッと心臓の音が大きくなる。


「なんか、ナマエっておれの頼んだ仕事ばっかりミスしてねぇか?」なんて言われる始末。
そう、私は彼に対して緊張のしすぎでミスを連発する。私のミスの8割はサボさんから頼まれたものだ。
「嫌がらせか?」なんて笑いながら言われて、私は口をぱくぱくさせる事しかできなかった。
その後すぐに「冗談だ。怒ってねぇよ」と優しく肩を叩かれて、私は叫ぶのを必死に堪えた。



今日もいただいてしまったチョコレートを仕事の合間にチビチビと食べる。体を動かさなくても、脳を使うと自然とお腹は減る。しかも甘いものが欲しくなる。
だからとってもありがたい。

そうだ、私もスーパーとかカフェで買ったお菓子を持って来て、お裾分けみたいな感じであげれば良いんじゃない?それならとっても自然だし。


次の日、私は早速小さなチョコパイが入った大袋を持参した。サボさんにだけ渡すのは明らかにおかしいので、営業さんと補佐のチャーリー、一人一人に配った。

「サボさん、もし良かったら」
「お。良いのか?ありがとう。いただくよ」

ニコッと笑って、サボさんは渡してすぐに袋から出してひとくちで食べてしまった。消えるのが早い。
もしかして足りない?

「もっといりますか?」
「ナマエの分がなくなるだろ?」
「いえ、いつもサボさんからお菓子もらってるから、お返しがしたいとずっと思ってて…。こんなのじゃお返しになりませんけど…」
「そんなこと気にするなよ。おれが好きでやってたのに。でも、ナマエがそう言うならもうひとつ貰って良いか?」
「はい!もちろん」

貰ってもらえた事が何だかとっても嬉しくて、笑顔でチョコパイを渡すとサボさんもにっこり微笑んだ。
うぅ、眩しい。なにその笑顔。


「ナマエさん、お返しに、もしよかったら」
「え、チャーリーありがとう!」

名前を呼ばれたと思ったら、チャーリーが私にクッキーを差し出した。私の好きなマカダミアナッツが入っているやつ。

「私、このナッツ好きなの」
「ほんとですか?俺もです」

食感も味も良いよね、なんて2人で話していると、サボさんが控えめに肩を叩いて来た。
びっくりして振り返ると、先ほどの笑顔のまま。でもなんか少し怖い。

「ナマエ、手伝って欲しい仕事あるんだけど、やってもらって良いか?」
「えっ、あ、はい。分かりました」
「この表にリストの品番打ち込んで貰いてぇんだけど…」
「はい」

席が隣だから、サボさんはそのまま私のパソコンを覗き込む。近い。いい匂いがする。

「あ、あの」
「ん?」
「ちょっと、あの…」

近いから離れてください、なんて言える訳がない。
私は今、顔が真っ赤だろう。でも大人しくサボさんの指示をうんうん聞いている事しかできなかった。







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