最近、ずっとピンクちゃんを見ていない。
エースの仕事が繁忙期という訳でもないし、どうしたんだろうか。


私とエースは定期的にセックスする間柄へと昇格した。私から誘うことの方が多い気がするが、あっちから誘ってくることもある。
初めてエースとした時、硬い床の上だったせいで次の日筋肉痛になった。だからセックスはどちらかの部屋のベッドの上でやると決めている。

エースのベッドはエースの匂いがしてすごく興奮する。枕とか布団をくんくんしていたら怒られた。更にはエースの脇とか陰毛に顔を埋めてくんくんしたら本気で怒られた。いい匂いだと言ってもエースはドン引きして私のおでこにデコピンした。


「ねえねえ、最近あの子、来ないね」
「あー、あいつ?」
「うん。私に牽制するのもうやめたの?」
「別れた」
「えっ!?!!」

リビングで2人、映画を見ていたらサラッと言われた言葉に思わず紅茶を吹き出した。エースが「汚ね」と言いながらティッシュを寄越した。ありがたく受け取ってエースと向き合う。

「えっ?どうして!?喧嘩?」
「いや。別におれもナマエとセックスできるし、いいかなって思って」
「えーー、エースって彼女のこと性欲処理としか思ってないわけ?」
「…好きな女だったら大切にするけど」

え?

「彼女のこと、好きじゃなかったの?」
「……別におれの事なんてどうでも良いだろ」
「よくないよ!女の趣味悪すぎだよと思ってたら、別に好きだったわけじゃないってこと?」
「まぁ…。あっちから寄って来るんだから、仕方ねぇだろ」
「こ、断りなよ。エース、もっと自分を大切にしてよ!変な女とばっかり付き合ってたら、いつか本当に殺されそうじゃない!?」
「そりゃこっちの台詞だ。おまえこそ、変な奴と変なことしてんじゃねぇよ」

ピリッと部屋の空気が変わって、エースがギロリと私を睨んだ。うう、ごもっともな意見に反論できない。
でも、違うんだよエース。私、本当は違うの。


「…もう変な人とか居ないから大丈夫」
「ほんとか?」
「うん」

まだ納得してなさそうな顔でエースは「まあいいけど」と言って、テレビへ視線を戻した。私も同じようにテレビの方へ顔を向ける。
アクション映画なのにいきなりセックスが始まってしまった。敵同士だったのに。さっきまで戦ってたのに。
何かお互いに惹かれるものがあったんだろうか。

「この女の人の顔、すごくエッチだね」
「おまえだっておれに抱かれてる時、めちゃくちゃエロい顔してるけどな」
「ええ!?嘘、どんな!?恥ずかしい!!」

今隠したって何の意味もないのに、私は抱いていたクッションで顔を隠した。エースはおかしそうに笑う。

「すげぇ嬉しそうな顔してる」
「え、と…そりゃあ、嬉しい、からね」
「へぇ。おまえ、セックスそんなに好きだったのか」
「い、いやぁ………」

遠くを見るような目をして、「知らなかった」とエースは呟いた。
でも私は「好きなのセックスじゃなくてエースです」と言うことができない。だって私たち友達なんだから。ずっと友達だと思ってた女(しかも同居中)に異性として見てますなんて言われたら身の危険を感じて出て行ってしまうかもしれない。

私は曖昧に頷いて、へへへと笑った。



私たちが仲良くなるきっかけになったのは映画だった。好みがピッタリ合って、一緒に観に行くうちに他にも似ている部分が多いことに気がついて、いつの間にか仲良くなっていたのだ。
自分とほとんど同じ意見を持っている人と語るのは楽しい。否定されることがないし、共感し合える。運命なんじゃないかって、私は思った。
エースは私のことをどう思ったんだろう。



お互いに仕事終わり、駅前で待ち合わせをして映画を見た。帰り道は同じ方向。同じアパートへ。それがとても嬉しい。付き合ってないけど、付き合ってるような気分になれる。

「結構エグいシーンあったね」
「子どもが殺されるのは無理だなあ…」
「エース子ども好きだもんね」
「あのシーンさえ無ければ、もう一回見てぇんだけどなぁ……」
「分かる」

映画館から駅まで徒歩15分。
ぷらぷらと歩いていると、突然腕を掴まれてギョッとした。慌てて振り返ると年上の元セフレだった。
そういえば彼は駅前のパブの店長だって言ってたな。外のお客さんにビールを運んでいたんだろう。片手には空いたジョッキを持っていた。

「…ナマエ!」
「え、あ、お久しぶりですね~~……」

とりあえずニコッとしてみたが、あっちの顔は真剣だ。後ろでエースが「誰?」と低い声で問いかけてきた。怖い。

「…ナマエの、彼氏?」
「あ、いや、彼はただの友達…」
「あ、そうなんだ」

目をぱちくりさせて元セフレはエースを見て、それからすぐに私と目を合わせる。かなり焦ったような表情をしていて困惑する。

「ごめん。俺、君が好きだ」
「えっ!!?」
「君と会えなくなって気がついたんだ。ごめん、彼女とか面倒で作りたくないとか言ったけど、君に側に居てほしい!君なら彼女になってほしいと思えたんだ!俺と付き合ってくれ!」

割と大きな声で元セフレが叫んだせいで、周りの酔っぱらいがヒューヒューと囃し立てる。背後から殺気を感じる。

「……あの、ごめんなさい。付き合えないです」
「まだ、好きな人のこと忘れられないのか?」
「あーーー、えっとぉ」

エースの前で!!!なんて事を!!!

確かに私は「絶対に叶わない恋に疲れたんです」と言った。でもそれを今言うな!エースの前で言っちゃダメなやつ!!だってその相手はエースなんだから!
エースは絶対に聞いてくる。「おまえ好きな人いたの?」って。きっとイジってくる。その時私はどうしたらいいの!?

「叶わない恋なら、諦めなくて良いから、俺と付き合ってみてくれないか?その男のこと、忘れられるくらい君を幸せにするから!」
「いや!好みじゃないので無理!」

もうパニックになって、咄嗟にエースの腕を掴んで走った。彼がまだ何か叫んでいるが気にしない。
急いで駅に入っていつものホームに駆け込む。ゼーハー言っている私と違って、怖いくらいエースは普通だった。
冷たい目をして私を見てくる。
こんな顔、エースに向けられたことなかったのに。最近多い気がする。

「なぁ。おまえ、好きな人いたの?」
「……えっと、」

やっぱり聞いてきた!
どうしよう、どうしよう。おまえだよ!

「叶わないって、誰だよ。おれの知ってるやつ?それとも職場の人間とか?」
「な、内緒…」
「……そいつとセックスできないから、代わりにおれとしてんのか?」
「………」

頭から冷水を浴びせられたみたいに、どんどん体が冷たくなっていく。エースは怖い顔をして私を見下ろしていた。
そんな顔しないで。

私、私は………


「さっきの奴と付き合えばいいだろ」
「な、なんでそんなこと言うの?」
「叶わない恋の相手が誰か知らねぇけど、どうせクズみたいな奴だろ。ナマエを相手にしねぇ男なんて。そんな奴なんか想ってないで、真剣に向き合ってくれる奴と付き合った方がいいんじゃねぇの?」
「クズなんかじゃない!!」
「!」







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