テーブルいっぱいに並べられた夕食を見て、彼は顔を引き攣らせた。

「おれが獲ってきたモノ以外がめちゃくちゃあるじゃねえか…。いいって言ってんだろ。おまえの金無くなるぞ」

エースはそう言ってなかなか椅子に座ってくれない。今夜のメインディッシュは彼が捕まえて来た熊で作った熊汁鍋だ。独特の臭みが酷くてキッチンでは異臭が消えない。換気のため、部屋の窓を全て全開にしているせいで寒い。

テーブルには他にも梨、林檎、バナナ、それに魚の塩焼きとチャーハンとパスタ。

「私が好きでやってるんだから良いでしょ?」
「んでここまで…」
「エースのことが好きだか「あー分かった分かった。ありがとよ」

げんなりして彼はやっと席に座ってくれた。一緒に「いただきます」をして、食べる。彼が食事中に突然寝るのには2日目にして慣れた。そんなに頻繁でもないけど、「あ、寝る」というタイミングが分かるようになって、事前に皿を引っ込める事に成功中だ。

彼は律儀に「ごちそうさまでした」と言うし、皿洗いをしてくれる。私は彼の洗った皿を受け取り、タオルで拭いて食器棚に片付ける。隣に並ぶとすごくドキドキするけど、好きな時間だった。
人間の一生で、心臓の鼓動の回数は決まっているらしい。つまり私はエースのおかげで寿命が縮んでいる。


「おまえさ、おれが既に心に決めた女が居たらどーすんだよ」
「気にしない」
「……おれが既に結婚してたら?」
「私に関係ない」
「いや関係あるだろ!」

エースは食べ物を口いっぱいに頬張りながら私を睨んでくる。「なんだこいつ」と目が言ってる。


「だって、私が勝手にエースを好きでいるだけだから。迷惑かけない。好きでいるくらい自由でしょ?」
「好きでいるだけに留まってねぇよ?」
「それはそうでしょ?エースが1人でこの島に現れて、しかも宿を探してた。そんなチャンス二度と巡って来ないもん。この機会を逃したら絶対後悔すると思ったから、私は勇気を出して行動に移したの」

本当はこんなことしない。誰にでもする訳じゃない。ただ、私は目の前の彼がどうしようもなく好きで好きで堪らないだけ。普通の人間じゃない、海賊なんかに恋をしたんだから、このくらい破天荒なことしなきゃ、きっと奇跡は起こらない。

「私はエースのことが心の底から好きなの。大好きなの!」
「う、うるせえな!分かったから!!」

目をじっと見て告白すると、彼は少し顔を赤らめた。そうそう、この調子。順調では?


「……ナマエ」
「え?なに?」

「おれが、ゴールド・ロジャーの実の息子だったら、どうする?それでも好きでいられんのかよ」

彼は私を探るような視線を寄越した。でも、どこか暗い。彼の瞳がいつもと違うようでドキリとした。

「…どうするって、別に、どうもしないけど。なんでそんなこと聞くの?」

私の発言に彼は「あ?!」と謎に驚いて目をぱちくりさせた。

「おまえゴールド・ロジャー知らねぇの?」
「いや知ってるけど。でも、エースと私に関係ある?」
「いやいやいやいや!おれの親父だぜ?だとしたら関係あるだろ!」
「いやないでしょ!」

ある!ない!を2人で言い合って、顔を見合わせて笑った。彼は弾けたように声を出して笑う。

「なんだよおまえ!」
「逆になんで関係あるの?もう死んでるし、親は親、子は子でしょ?あ、でも仲良かったら関係あるか。仲良しだったの?」
「んな訳あるか!!」
「だったらやっぱり関係ないよ」

私が笑うと彼も困ったように笑った。
エースの父親はあのゴールド・ロジャーなの?なんか凄い。

「おれの親父は白ひげだ」
「じゃあ私、今度会ったら挨拶しなきゃだね」
「は?なんでだよ」
「だってその時には私とエース、結婚してるかもしれないし…」
「おまえ頭イカれてんな」
「頭おかしくなってるとしたら、それはエースのせいだよ。やっぱり責任とって結婚してほしい」
「……おまえと話してると頭痛くなってくる」

ため息を吐いてエースは座り直し、食事を再開した。みるみるうちに無くなる食べ物たち。「これうめえ」とちゃんと言ってくれるから、作りがいがある。明日は何にしようかな、と考えるのは楽しい。私の有金全てエースにくれてやる。

「でもゴールド・ロジャーが生きてて、私の親も生きてたら流石に反対されてたかも」
「…」
「どっちの親ももういないから、今の私たちがあるんだね」
「おれが海賊の時点でおまえの親には反対されるだろうよ」
「そしたら駆け落ちしたらいいよ。どこかに連れて行って、私のこと」

ね?と首を傾げると彼は気まずそうに目を逸らした。顔がさっきから赤い。それが私の大好きな顔で、勝手にニヤけてしまう。
私の言葉で照れてるのかと思うと、つい良い気分になってしまう。

「つか、おれはおまえの男になった覚えはねェよ。何が駆け落ちだ」

そう言いつつも、この日はたくさんお話ししてくれた。白ひげ海賊団の話やスペード海賊団だった頃の話。ついでにまた弟の話も。彼はたくさんのことを私に教えてくれた。
お酒も飲んでないのに、不思議な日だった。










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