彼が再度、私の暮らしている島に現れたのは、いつだったろうか。いつもの仲間は居なくて、1人だった。
酒場の扉を開けた入ってきた瞬間、私は嬉しさで身体中が痺れるようだった。また来てくれた、エースが!

「よお。久しぶりだな」
「来てくれたんですね…!」
「ああ。約束したろ?」

ニヤッと笑った彼は、前よりも顔も体付きも男らしくなっていてドキドキした。

「人を探してんだ」
「人を?誰ですか?」
「ティーチ。おれたちの仲間だった野郎だ。浅黒くて、歯もボロボロで、太ってる黒髪の男を覚えていねえか?」
「エンジ色のバンダナの人ですか?黒い髭の生えた」
「!そいつだ!!居たのか!?」

途端に殺気を宿した彼の眼光に少したじろいだ。仲間だった、ということは裏切って逃げているんだろうか。

「昨日、この店に来てました。大事な用事があるって言ってましたけど…」
「昨日!?」
「はい…。まだこの島にいるかは、わからないです」

私の言葉を最後まで聞かずに彼は店を飛び出して行った。自分の伝えたいことを伝える前に消えてしまった。せめてご飯だけでも食べたいって欲しかったな。


なんて思っていたら、夜になってまたエースは現れた。

「見つからなかった」
「そうですか…」
「だが街の中にティーチを見たって奴がいたな。ティーチはまだこの島にいるかもしれねえ。しばらくは滞在する。宿を教えてくれねえか」

酒とチャーハンをテーブルに置いて、私は震える手を必死に隠して「私の家に泊まってください」と言った。だってこれはまたとないチャンス。きっと神様が与えてくれたんだ。だって宿を私ではない誰かに聞いていた可能性だってあるんだから。

彼は食べかけていたチャーハンを口からこぼしながら「はっ!?」と目を見開いた。

「私、あなたが好きって言いましたよね?次いつ会えるか分からないから、少しでもあなたの側にいたいんです。それに、あなたのこともっともっと、たくさん知りたいんです」

気持ちが言葉と一緒に溢れて、思わず声が大きくなってしまった。遠くでウエイトレス仲間が「ナマエ何言ってるの!?」と驚いている。

「おまえ、家族は?」
「みんな数年前に死にました。一軒家に一人で住んでるんです。だから空いてる部屋はたくさんあります」
「…けどよ、」
「朝夕のご飯も出します!それに、お昼はお弁当を作りますから!お願いです!うちに泊まってください!!」

周りがざわざわしているし、ヒューヒュー、なんて囃し立てている常連さんの声も聞こえる。でも私はそんなこと気にしている場合じゃなかった。恥ずかしいし、怖い。でも、それでも、止められないほど目の前の彼が好きで堪らない。

「女の子がそこまで言ってんだから、泊まってやりなよ兄ちゃん」「ナマエちゃんは普段こんなこと言わないぞ?こりゃ本気だぜ」

周りのナイスアシストのおかげか、彼は「…分かったよ」と私の家に泊まることを承諾してくれた。かなり引いた顔をしていたが、泊まることになってしまえばこっちのもんだ。
何日泊まるのかも分からない。
でも、このまたとないチャンスに私は賭ける。彼が私を好きになってくれますように。


彼は律儀にも私が仕事を終えるまで店で待っていてくれた。途中で寝ていたりもしたし、最悪なことにお金を持ってなかったけど。もちろん私がこっそり立て替えておいた。朝夕の食事とお弁当、いつまで続くか分からないが、今までの貯金全てを使う覚悟だ。
そのくらい私は本気だった。

店から我が家まで徒歩15分。
彼と並んで歩くのは初めてで、頭が真っ白になるくらい緊張した。こんな状態で私は彼と暮らせるのだろうか。

「……あの、エースって呼んでもいい?」
「いきなり馴れ馴れしいな…。まあ、別にいいけどよ」
「良かった。仲良くなるためにはまず言葉遣いからかなって思って。私の名前、知ってる?」
「………ナマエ、だろ?」
「うん。ナマエって呼んでね。親しみ深く」
「んだよそりゃ」

プハッと彼は吹き出した。その笑顔に、今までの緊張が少しほぐれるようだった。エースの笑顔は子どもっぽくて可愛い。胸がギュッと切なく痛む。

家に着いて、客間として用意されていた部屋へ彼を案内した。お風呂とトイレ、キッチンなんかも教えて、一応私の部屋も。

「いつでも来てね」
「おまえの部屋になんか用はねぇよ」
「…寂しい時とか」
「そんな事あるわけねぇだろ!」

彼は怒ってるようで怒ってない。それが分かって嬉しく思う。少し居心地悪そうにしている彼を見ていると意地悪したくなる。私ってこんな性格だったっけ。好きな人と一緒にいる私といつもの私、どちらが本当の自分なんだろう。


「夜食はどうする?今から作れるよ、食べる?」
「…飯の件だけどよ、タダで泊めてもらうんだし、食料はおれが調達してくる」
「え?どういうこと?」
「肉とか魚、ティーチ探しのついでに山か川で捕まえてくる」
「えっ、そんなことできるの?」
「おれを誰だと思ってんだ」

彼は得意げな顔をした。そういう仕草は初めて見る。こうして一緒に過ごせば、色々な彼を知ることができるんだ。


私の仕事の時間は12時から8時までで、朝8時に起きて彼と朝食を済ませる。朝食作りの時に一緒に作っておいたお弁当を持たせると彼は9時には家を出る。それを見送る。振り返らないし、手を振り合うこともないけれど、彼の広くて逞しい背中が見えなくなるまで私は見送った。










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