バイトメンバーのグループLINEがあって、私とエース君はよくシフトを交代し合ったりしているから、個人でも繋がっていた。

『来週の火曜、18時から22時。部活のミーティングで出れなくなった。代われる?』
『いいよ!じゃあ代わりに水曜の私の出番、出てね』

そんな感じ。だったのに。

『さみぃ』
『分かる。今日寒いよね』
『大学って暖房あんの?』
『なかったら凍え死ぬでしょ』
『そりゃそうか』

なんて、他愛もないメッセージを送り合うことが増えていた。気がついたらそんな内容ばかりになっていた。

前に「いろんな女からLINEが毎日来るから面倒臭くて無視してる」と言っていた彼のLINE通知は100を超えていた。そんな中、私とは面倒臭さがらずにちゃんと続けてくれているのは何故だろう。
変に期待させないでほしい。

『新人のバイト見た?』

新人のバイト?そんなの知らない。
いつの間に入ったんだろう。
エース君が言うには、大学院生で私とエース君とは違う時間帯にシフトが入っているらしい。けれど最近、休日の昼間にエース君はその人とシフトが被ったようだ。

『めちゃくちゃ美人だった。やべえ』

え?美人だった?女なの?

そんなことを気にする前に、こんな話を私にする時点で私は脈無しなのだ。エース君はその新人さんを好きになったのだろうか。だとしたら、私は惚気話や恋愛相談をされるんだろうか。そうなった場合、私はどうしたらいいんだ。



エース君は今日も時間ギリギリに来て、パートのおばさんにぐちぐち文句を言われていた。それでも彼は「腹減った」なんて言って全く話を聞いていない。
おばさんは怒ったまま帰ってしまい、私とエース君2人きりの時間が訪れた。

彼は水道でしっかり手を洗ってから、私の隣に並んだ。
店内には「コロッケさん」とあだ名を付けられてしまった、毎日この時間にコロッケを買いに来るおじさんだけ。

「…新人さん、私も見たいな」
「まだ見てねえの?いやぁ、初めて見た時、モデルかと思ったぜ。あれに似てる、月9に出てる、悪女役の女優」
「知らん」

ナイスタイミングでレジにコロッケさんが来たので、エース君から逃げるようにレジに向かった。
本当はその女優を知っている。その人に似ているとなると、本当に美しい人なんだと思う。

いつも通りコロッケを買ってくれたコロッケさんを見送り、振り返ると後ろの控え室で焼き鳥を頬張るエース君と目があった。ちゃんと代金を払ってるからいいけど、今仕事中だよ君。

「好きになっちゃったの?」
「は?焼き鳥を?」
「馬鹿。新人さんだよ」
「ああ。美人の」

人の気も知らないで、エース君は『ご自由にどうぞ』と書かれた箱の中のクッキーを手に取る。先日辞めて行ったパートさんが置いて行ったものだ。
綺麗にパッケージを開き、大きなクッキーをひと口で頬張った。

「めちゃくちゃ美人だった。でも、おれの好みじゃあ、ねぇ」
「あ、そう、なの?」

意外。
エース君は身長も高くて大人びてるから、同じように大人っぽくてセクシーなお姉さんとか好きそうなのに。

「じゃあ、どんな女の子が好みなの?」
「んー?ナマエみたいな女」

ニヤニヤした顔で爆弾発言をしたエース君の肩を思いっきり殴った。「そういう冗談は二度と言うな」と怒ったら笑ってはぐらかされた。

きっとまた面白がって似たようなことを言ってくるだろう。私が驚いたり、照れたりするのが彼はお好きなようだ。なにかと子どもじみたイタズラを仕掛けてくる。
その度にドキドキしてしまう自分が情けない。



「ナマエちゃんが引っ越しちゃうなんて、寂しくなるわぁ」
「あはは。大袈裟ですよ。また遊びに行きますから」

1番仲良しのパートのおばさんと話していたら、休憩室でいつものようにフライドチキンを食べていたエース君が大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
目を大きく開いて、口元はチキンの油で少し光っている。

「は!?ナマエ、引っ越すのか?」
「え、うん」
「あら、何よナマエちゃん。まだエース君には言ってなかったの?」
「あ、はい。別に良いかなって」
「よくねぇよ!!」

今にも食ってかかりそうなエース君の勢いに私とおばさんは「わぁ」と声を揃えた。
ちょうど時間になって、おばさんが「私お邪魔かもー」なんて言って帰ってしまった。

エース君はムスッとした顔でレジに立つ。そんな怖い顔してたらお客さんが可哀想だろうよ。たしかに引っ越しのことをエース君には言ってない。でも、別に彼にとってそんなことどうでも良いと思ったから言わなかった。
「私引っ越すんだ」と言っても「へぇ」しか返って来なそうだもん。

「ナマエ」
「なに?」
「今日、21時までだろ?」
「うん」
「待ってるから、終わったら少しいいか」
「え、あ、うん…。いいよ」

今日、エース君は20時上がりだ。
何?この展開。待ってくれるの?なに?私になんの用ですか?用事があるなら今すぐ言って欲しい。
心臓がバクバクする。あと4時間、私はちゃんと仕事をこなせるだろうか。









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