ナマエが俺の過去や素性について隠しているのは何となく知っている。
結婚する前も、その後も彼女は俺についてこっそり調べていた。俺の過去は、本人である俺にさえ話せない様な内容なんだろうか。

自分でも最近、少しずつ何かを思い出すタイミングがある。


宇宙。仲間。そして家族。


ライルの写真を見てから家族の記憶が少しだけ蘇った。俺にはライル以外の家族がいない両親や妹は居たはずだ。だが「いない」と脳内で断定されている。

そしてガンダム。
俺は確実にガンダムについて何かを知っている。でもその何かが全くわからない。
ニュースで流れるガンダムの映像を見ると、胸がざわめく。

今すぐ彼らの元へ駆けつけなければ。
俺はこんなところで何をしているんだ。

焦る気持ちにハッとして、その度に蓋をする。


またに考え込んでいると「大丈夫?」と俺よりも浮かない顔をして尋ねてくるナマエ。
真実を知ったら俺は、また彼女の元から姿を消すんだろう。
きっと彼女もそれを感じていて、真実を話せないでいる。だから俺がこうして悩んでいるととても心配してくるのだ。


ナマエをもう傷つけたくない。
一人にしたくない。ずっと側にいて、愛してやりたい。
そう思うと俺は自らの詮索をやめた。



今が幸せならそれでいい。
隣でナマエが笑っているなら、俺は大切な過去も捨てる覚悟だ。
それが間違った道だとしても、いつか償う日が来ようとも、俺は目の前の大切な家族から離れる事が出来ない。





中庭ではナマエと愛する息子が花壇にチューリップを植えている。
ニコも近くで2人の作業を物珍しそうに眺めている。
俺は2階の寝室の窓からぼんやりそれを眺めている。


「あ、パパ」
「ニール君!起きたの?もう10時だよ」
「起こしてくれなかったのか?」
「昨日帰ってきたの遅かったから、疲れてると思って」


「おはよう」と笑うナマエ。
その横で俺に向かって手を振る息子。

こんな素敵な光景を見たら、やっぱり過去なんて知らなくていいと思う。知るのが怖い。
だが、知らなきゃいけない。そんな気もする。

だけど、今だけはこのままでいたい。


「パパ!はやく来てー」

ナマエに良く似た笑顔の息子は必死に大声を張り上げる。そんなに叫ばなくてもしっかり聞こえると言うのに。

「おー。今行くから待っとけー」

「うんー!」という元気な返事を聞いてからその場を離れ、クローゼットから服を取り出す。
クローゼットの奥に仕舞われたライフルが視界に入って、また何かを思い出しそうな感覚になる。

でもそれは、幸せな記憶な気がする。


過去にナマエにここに住めと言われた時、俺はすごく嬉しかったんだと思う。きっと俺はずっと彼女が好きだった。
そしてもちろん今もだ。


「ねえまだー?」
「パパそんな早く来れないよ」

笑うナマエと少し怒った息子の声を聞いて、俺は階段を駆け下りた。




end







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