17話「夫婦と主夫」

.


名前の悪阻は1日では治らなかった。
義勇は朝昼晩と名前の代わりに家事を必死にこなしていた。

「久しぶりに動いた…」
「そうですよね、ありがとうございます」

やはり鬼と戦うのと家事は違うようだ。
ふう、と義勇はため息を吐き、名前の布団の横に座る。

「名前と出会うまでは1人でやっていたはずなのにな」
「そうですね」
「まだつらいか?」
「はい…」

いつもより名前が話さないからか、今日は義勇がよく喋る。
冷たい手で頬を撫でられるとひんやりとして気持ちよかった。
吐きすぎて喉の辺りが気持ち悪い。
首元まで義勇の手を持ってくれば、冷やされて少しは楽になった気がする。

「いつもよりあたたかいな」
「火照ってしまって」
「そうか」

そのうちウトウトしてくると、いつの間にか眠りについてしまった。



翌朝、名前は味噌汁の匂いで目が覚めた。
吐き気を覚えたが我慢して台所へ行くと、やはり義勇が朝食の準備をしていた。
自分があれからずっと寝ていたことに驚く。

「おはようございます」
「気分はどうだ?」
「ちょっとまだ…」
「そうか。朝食は食べられそうか?」
「…少し、厳しいかもしれません」
「ならこれはどうだ?」

義勇が取り出したのは昨日同様にみかんと、りんご、それに蜂蜜だった。

「りんごに蜂蜜をかけたら美味いと言われた」
「ど、どなたに?」
「店主だ。妻が悪阻だと言ったら教えてくれた」

「妻」という言葉に不覚にもドキッとした。
いまだに照れてしまう。


「ありがとうございます。私はりんご食べますね」
「わかった。持っていくからおまえは寝ていろ」

そう言って義勇は朝食の支度と、部屋の掃除、洗濯物をこなしてしまった。
てきぱきと動く姿を布団の中から眺める。
男、しかも夫にこんなことまでやらせてしまうくらいなら家政婦でも雇って貰えば良かったと後悔する。
義勇が任務に行ってしまったらどうしようかと不安にもなる。


夕方、ひと段落した義勇はお茶を2人分淹れて名前の側にやってきた。

「明日から任務で2日は戻らない」
「そうなんですね…」
「しばらく実家に帰ったらどうだ?」
「…やっぱり、そうですよね。義勇さんにこんなに迷惑をかけてしまって」
「おまえを追い出すとか、足手まといだと思っている訳ではない。おまえが心配だからだ」
「義勇さん…」
「それに実母が近くにいた方が何かと安心するだろう。俺が任務から帰ったら迎えに行く。俺が家にいる間は家のことを任せてほしい」

義勇の説得の末、名前は明日から実家に帰ることになった。
幸いにも実家は隣町でそう遠くない。

こうしてしばらくの間、夫婦は離れて暮らすことになったのだった。




prev / back / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -