10話「夫婦の不安」

.


義勇はいつ犬に寝込みを襲われるか、襲われた場合名前もいる手前どうしたらいいのか。
ひたすら考えているうちに朝になっていた。

今日は任務もない。
いつもよりのんびり朝食を食べていると玄関から子犬たちの鳴き声が聞こえて来る。
名前はそわそわと玄関の方へ視線を向けた。

「あの、義勇さん…。朝ごはんを犬たちにもあげていいですか?」
「…もちろんだ。俺はそんな冷たい男じゃない」
「それは知ってますけど、だって義勇さんの稼いだお金で買った食べ物だし、この屋敷だって義勇さんの…」
「いいから、気にするな。貰い手が見つかるまで世話をしてやればいい」
「ありがとうございます!」

ぱぁぁと目を輝かせ、名前はそそくさと朝食を終えると余り物で子犬たちにご飯を作っていた。
犬たちもお腹がすいているのか先ほどからクンクン鳴いている。


名前が子犬たちと庭で遊んでいる間、義勇は縁側からその様子を眺めた。

「義勇さんも遊んでみますか?」
「いや…」
「楽しいのに」


一方名前は少しだけ、悩んでいた。
自分は義勇のことを何も知らないということを思い知らされたような気がしたのだ。

犬が苦手なことを知らなかった。
それに義勇の過去のことなど何も分からない。
家族はいないことは知っているが、それ以外は何も知らないのだ。

(夫婦なのに、私って旦那様のことを何も知らなくていいのかな)

縁側でぼーっとしている義勇は今にも寝てしまいそうだ。
そして義勇も、名前のことをどこまで知っているのか。
名前は何となく、不安になった。




「犬たちの貰い手が見つかりました!」

あれから3日後、名前は友人の中から犬を引き取りたいという人物を見つけることができた。
子犬たちはその日のうちに新たな飼い主の元へ行き、家の中はまた元どおりの生活に戻った。
それから名前に少し元気がないことを義勇は知っている。


2人床に付き、天井をぼんやり眺める名前。
たまらず義勇は声をかけた。

「名前、大丈夫か」
「…え?何がですか?」
「最近、元気がないように見える」
「そう、ですか?」
「俺は任務で帰らない日もある。やはり1人は寂しいか。何か、飼いたいか?」
「えっ」

名前が驚きの声をあげて起き上がる。

「全然!そういうことではないんです」
「?」
「ただ、義勇さんが犬が苦手だって知らなかったから…私ってあんまり義勇さんのこと知らないんだなって…思ったんです」

義勇は予想外の名前の発言に驚いた。
目の前でしょげている様子からして本心だろう。

「名前、俺もおまえのことをあまり知らない」
「はい…」
「過去のおまえを知りたいとも思うし、名前が俺のことを知りたいならいくらでも教える。
俺たちはこれからも、一緒に生きていく。
その中でゆっくりお互いを知っていけばいい」
「そうですね…」
「大丈夫だ、名前」

そう言って義勇は名前を抱き寄せた。
彼女の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
心地が良かった。

「じゃあ、これから色々聞いてみていいですか?」
「ああ。いつでもかまわない。俺も気になったら聞く」
「ふふ、わかりました」


その晩2人は眠りにつくまで自分たちの好きなもの、嫌いなものを語り合ったのだった。





prev / back / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -