3話「夫婦と宿泊」

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名前と義勇は大衆浴場を楽しんだ。
初めての大きな風呂に名前はとても喜んだ。
しかし、色んな人から向けられる視線は自分の背中だ。

まだ治ったばかりの傷。
以前、自分に付き纏っていた男につけられた刺し傷は一生消えないだろうと言われた。

名前本人は背中を見るこができないため、どのくらい酷い傷なのか分からない。
さほど気にしてはいなかったが、義勇は名前と正反対でとても気にしているようだった。

夜に性行為を行う時、必ず名前の背中を優しく撫でた。
そして「すまない」と謝りながら傷にキスをする。

名前は「気にしないでください」とか「貴方のおかげで助かったんです」と言ってはみるが、義勇にはあまり効果のない言葉であった。


名前も辺りを見回す。
湯治場ということもあり、傷がある者や皮膚の病気を持っているらしい人々がたくさんいた。
この旅は傷よりも体調のために来たが、背中の傷も少しは良くなればと思った。

少しでも傷が薄くなれば義勇の罪悪感も一緒に薄くなるんじゃないだろうか。
名前は男湯の方を向いて義勇を想った。



「いいお湯ですね」
「ああ」

風呂から戻るとすでに義勇は部屋に帰ってきていた。
未だに窓際で景色を眺めている。

「ここに2日も泊まれるんですね」
「そうだ」
「たまにはこういうのも、良いですね」
「名前がそう言ってくれるなら、連れて来た甲斐があったな」

義勇は珍しくにやりと笑い名前に手招きをする。
素直に従い、椅子に座る義勇の前にしゃがんだ。

「楽しいか」
「はい!もちろん」

キラキラとした名前の笑顔に義勇もつられて笑顔になる。

「今夜、いいか」
「あ…、大丈夫です」

体調が悪い名前のためにここ数日、性行為をしていなかった。
もちろん名前の身体を思えばいくらでも我慢できたが、いつもと違った状況だと妙に彼女が恋しくなる。

「つらくなったら言え」
「はい」

名前はまだ外が若干明るいことが気になったが、すでに敷かれた布団の上に2人は転がった。
いつも通り優しい手つきで名前は義勇に愛撫される。

「あたたかいな」

名前の胸に顔を埋め、義勇はつぶやいた。

「義勇さんも、あったかいです」
「そうか」

こうして夜はあっという間に更けていった。






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