6.5話「あの日の事を語り合おうか」


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名前は胡蝶カナエと仲が良かった。
よく一緒に居たのを覚えている。


俺が蝶屋敷へ行った時、突然胡蝶カナエに呼び止められたことがあった。
まだ柱になっていない頃だ。

「…何の用ですか」
「冨岡くんにちょっと見てもらいたいものがあって」

つんつん、と今の胡蝶しのぶのように彼女も俺の背中をよくつついていた。
無理矢理自室へ連れて行かれるとそこには商人の女がたくさんの髪飾りを畳に広げていた。

「もうすぐ名前の誕生日なの。それでね、髪飾りをあげたいんだけど決めきれなくて」
「…はあ」
「本当は買いに行きたかったんだけど、忙しくてね。わざわざ売りに来てもらってたのよ。
あなたが来て丁度よかったわ」

胡蝶カナエはたくさんの髪飾りを手に取り見比べていた。
キラキラしていかにも女が好きそうで。


「俺は女性の趣向には疎い。貴女が選んでください」
「私じゃダメなのよ」
「なぜ」
「やっぱり冨岡くんが選んだ物の方が、名前は喜ぶわ」

きっと貴女が選んだものでも喜ぶだろう。
それでも、俺は何も言わずに名前のために髪飾りを選んだ。
俺の選んだ髪飾りは珍しくもない至って普通の物だった。
ただ、なんとなく、名前にはシンプルなものが似合うと思ったからだ。

「素敵ね」
「…そうですか」
「冨岡くん」
「はい」
「自信を持って」
「…」
「名前は本当に心から貴方が好きなのよ。だからね、大丈夫よ」

胡蝶カナエはそう言って笑った。

確かに俺はあの頃、名前の気持ちを疑っていた。
口下手であまり人と仲良くできない俺を気遣って言っているだけで、本当は俺のことなど好きでもなんでもない。
名前はただのお人好しなんだろう。

そう思っていた。
自分を好きになる人間なんているはずがないと。



後日、たまたま名前に会った時。
彼女は俺を見た瞬間に笑顔で駆け寄ってきた。

「髪飾り、義勇くんが選んでくれたんでしょ?」
「…ああ」
「ありがとう、すごく嬉しい」

しかし髪には何もついていなかった。
そんな俺の視線に気づいたのか、名前は恥ずかしそうに笑った。

「大切すぎて、つけられないの。部屋に飾ってるから今度見に来て」

たぶんあれが最初で最後の、俺が名前を想って選んだ代物だろう。
しかも名前に渡したのは自分ではない。
誕生日など、祝わってやれなかった。


だから、またあの笑顔が見れるなら、また名前に会えるなら…
俺はいくらでも彼女へ贈り物をするだろう。











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