1話「夫婦の食器」

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名前が義勇に嫁いで1ヶ月。
旅館の仕事は辞めて家を守る事が仕事になった。
そうすると、なにかと不自由なことが目に付くようになった。


まず食器だ。
箸も皿も義勇が昔から使っていたものと、名前が自宅から自分のものを持ってきたもの。
大きさも色も形もデコボコだ。

名前はそれらを揃えたいと思っていた。
夫婦茶碗、夫婦箸…。
憧れる。

名前は食器を買いに行くことに決めた。
しかし自分が勝手に決めても良いものか。
夕食時に義勇にも聞いてみようと思った。


「義勇さん、好きな色はありますか?」
「色?」

義勇は初めてそんな質問をされたと言った表情で名前を見つめた。
質問の意図が分からないようだ。

「私は赤が好きです」
「そうか」

たしかに名前の着物や持ち物には赤が多いな、と義勇は思い出した。
しかし義勇は特にこの色だから、と選ぶものなど今までなかった。

「羽織の色とか、好きですか?」

名前に羽織のことを聞かれて考える。
今は部屋着を着ているので羽織は近くにない。
あれは何色というんだろう。
第一、別に好きな色という訳ではない。

無言になって食事も進まなくなってしまった義勇に名前は困惑した。

「ええと、義勇さん?」
「なんだ」
「好きな色の話、ですけど…」
「そうだったな。俺はあまり考えたことがない」
「そうですか…」

名前は残念そうに目を伏せた。
義勇はどきりとする。
嫌われてはいないだろうか?と。

そんな義勇の心配もよそに、名前は上手に作れた天ぷらを笑顔で味わっていた。

(明日、私が勝手に選んじゃおう)


____


市にやってきた名前。
今夜のおかずは何にしようか、と八百屋を眺める。
義勇は今日夕方には帰ると言って昼に任務に向かった。

疲れて帰ってくるだろうから精の付くものにしよう、と魚屋に向かった。


ウナギを買った帰り道、いつも通り過ぎるだけの食器屋に立ち寄る。
一人暮らしを始めた頃に一回だけ寄った。

「お嬢さん、なにか探してるのかい?」
「あ、はい。夫婦茶碗と、箸を…」
「なるほどね」

店主のおじいさんは店の隅から何種類か名前の前に出してくれた。
箸も茶碗も色違いだが柄が同じで、女の方はどちらとも少し小さい。
まるで自分と義勇のようで微笑んだ。

そこで赤い茶碗と青い茶碗のセットを見つけた。
自然と義勇が思い浮かぶ。

(義勇さんは、青が似合う…)

名前はその茶碗と、似たようなデザインの箸を買って嬉しそうに自宅へ戻った。


____


義勇が家に帰るといつもよりニコニコしている名前がいた。
いつもより夕食の準備も早い。

「義勇さん、これ、買ってみたんですけど…」
「!」

名前が差し出した茶碗と箸。
淡い青色がまるで自分の日輪刀のようだった。

「おそろいなんです」

恥ずかしそうに名前は自分の茶碗と箸も見せた。
自分のより少しだけ小さいそれらを見て、義勇も自分たちのようだと思った。

「素敵じゃないですか?」
「ああ。おまえは趣味が良いな」

そう言って義勇が微笑んだ。
珍しいことに少しだけ驚いた名前だが、すぐに満面の笑みになる。

「今ごはんよそいますね!今日はウナギですよ」
「ありがとう」

義勇は手伝うために名前の後を追った。


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