最終話「夫婦の家族」

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「義勇さん」
「…」
「義勇さんったら。もう行ってください」
「……ああ。行ってくる」
「はい。いってらっしゃい」


母親に抱かれる娘をひと撫でし、義勇は名残惜しそうに屋敷をあとにした。

妻と娘と少しでも一緒にいたい。
そうは言っても己の責務のために行かなくてはいけない。
義勇はぐっと堪えて前を向き、歩みを進めた。



名前が無事に女の子を出産して半年が経った。
美々子と名付けられた子はすくすくと順調に育っている。

それからすぐに柱たちが祝福にやってきて、お祝いの品で屋敷は溢れかえってしまった。
甘露寺蜜璃は自分のことのように泣いて喜んで、たくさんの菓子を持ってきてくれた。


相変わらず義勇は柱として忙しい毎日。
あまり家にいることができない事を気にしていたが、名前はそんな夫を笑顔でいつも見送る。

初めての育児は一筋縄ではいかない。
しかし、実家から孫目当てで頻繁にやって来る母や姉妹たち、そして近所の主婦たちに助けられている。
毎日が賑わい、今まで一人で義勇の帰りを待っていた頃が懐かしいくらいだ。


そしてあっという間に大きくなる娘の成長。
名前は義勇にどんどん似て来る娘が愛おしくて仕方がない。


義勇は母になり、また一段と強く美しい女性になった名前を頼もしく思う。
そして自分と愛する名前の間に生まれた子を、宝のように思っている。


自分がしっかりとした親になれるのか不安だった。
しかし、名前も義勇も今はそんな事を考える余裕もないほど忙しい毎日。

たくさんの不安は消えない。
だが今は精一杯、後悔のないように日々生きるだけだ。


きっと自分たちなら大丈夫、そう思える。
そんな気がしていた。



いつか鬼が消えた世の中で、家族3人で出かけよう。
行ったことがないところへ旅行しよう。
落ち着いたら2人目も考えよう。
きっと美々子も妹が弟が欲しいはず。

そんなふうに、よく夫婦で話をする。
娘が出来てから、たくさんの夢や希望を抱けるようになった。


明るい未来を信じる。
そしてその未来は、きっと遠くない。




end



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