45 私の知らない先生A

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名前のことを「どうでもいい」と思っていたからだろう。
俺は最初から名前に対して素直な姿を見せていた。

家族の前での俺は、長男として頼りになる存在でありたかった。
彼女の前ではたまに甘えて、それでも常に男らしく、彼女の憧れの存在でいたかった。
職場ではもちろん生徒からも他の教師からも好かれる良き教員でいようと心掛けていた。
友人の前では自分らしく、明るく溌剌とした姿を見せていた。


名前の前でだけは初めから違っていたのだ。
どうでもいい存在だったからこそ。
嫌われても良い相手だったからこそ。

1人でいる時の孤独で疲れきった自分。
「兄」という存在も「彼氏」という存在も「教師」「太陽のような人間」「煉獄杏寿郎」…
俺だって疲れる時はある。
それは1人になった時にふと感じる。

全て偽りの自分というわけではない。
もちろんみんなの前での自分もちゃんとした「自分」である。
名前の前での俺は「ただの煉獄杏寿郎という男」だった。


だからだろうか。
名前と共に過ごす時間は自分にとって何のストレスでもなく、むしろ心地が良かった。
名前が俺を受け入れてくれていたからだ。
どんな俺でも名前は驚いたりしないし、否定もしない。
それがなんとなく、ぼんやりと、嬉しいと感じていた。


彼女とついに別れた時。
名前のことが突然この上なく恋しくなった。
早く会いたい。
今の俺を受け入れてほしい。
きっと名前なら受け入れてくれる。
そう思って、名前に触れた。
それが合図のように、俺は無意識に彼女にキスをした。
それから止まらなかった。


やってしまった。
と、後悔しても遅い。
生徒と肉体関係を持ってしまった。
しかも相手は名前だ。

絶対にしてはいけない行為をした。
けれど今名前を離したくはない。
生徒と教師は付き合うことなんてできない。

ぐるぐると酔ったような感覚で考え続けたが、答えは出なかった。
名前が俺をやはり全て受け入れてくれた。
だから俺はそんな名前に甘えて、セックスフレンドのような関係を続けてしまった。

自分がこんなにも最低な人間だったとは。
絶望感に苛まれる。
しかし、そんな時でも隣で名前は笑ってくれた。
綺麗な笑顔で、俺に話しかけてくれた。
俺にとっての救いだったのだ。






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