3 先生と仲を深めよう

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カチリ、また鍵をかける。

「先生、昨日はごめんなさい」
「…また君か。もう来るなと言っただろう」
「だから謝りに来たんですけど」
「……」

1度目の訪問の後は間隔を空けずに次の日にまた訪問する。
ネットでたまたま見た飛び込み営業の極意という記事に書いてあった。
まあ確かに私も飛び込み営業みたいなものだな、と思って実践してみたのだ。

昨日先生が座れと言ったパイプ椅子に腰をかける。
先生は背を向けて自分のデスクから動かない。

「サボるな。担任に言うぞ」
「今ちょうど自習時間だからこっそり抜け出してもバレないです」
「課題があるだろう。ちゃんとしなさい」
「終わりました」

先生は壁に掛けられている時計を見た。
それで少し考えて、また視線を落として何かをしている。

「何してるんですか?」
「…」

無視されたので自分から先生の背後に寄った。
顔を先生の後ろ肩に近づけた瞬間、ふわっと柔軟剤の匂いが漂った。
そこでふと思い出す。

先生は実家が近くにあるにも関わらず賃貸に一人暮らしだ。
それは同じく実家住まいの彼女と二人きりの時間が欲しいから用意したもの。
もちろんこの情報も彼女のSNSから入手した情報。
この柔軟剤も彼女が選んだものに違いない。


「あ、私もこの本持ってますよ」

先生のデスクに無造作に置かれていた小説。
最近話題になった江戸時代が舞台のコメディ。
さすが歴史の教師だ。そういうのはチェックしてるのかな。


「…苗字も小説を読むのか」
「はい。話題になった小説は一通り読みます」
「すごいな」
「これ、全部読み終わりました?」
「まだ、途中だ」
「ラスト、主人公がどうなるか知りたいですか?」
「……いや、楽しみにとっておく」

いつのまにか先生の視線は手元ではなくて、私と同じように小説の表紙へ向いていた。


「ねえ先生」
「……なんだ」
「私が先生のこと好きなの、本当だからね?もう何回でも言うから。無視されても。安心して、誰にもバレないようにするから。絶対に、先生に迷惑かけないようにするよ」
「………もう十分迷惑だ」
「分かりました。もうここにはあんまり来ないようにする」
「あんまり、じゃない」
「だって普通に社会科の先生に用がある時に来なきゃいけないし」
「……君はああ言えばこう言うな」
「初めて言われました」
「…」

先生がこちらを向いてくれないし、また手元に目線がいってるから表情は見えない。
きっと呆れているんだと思う。
はぁ、と短いため息が聞こえた。


「私歴史の授業、好きです」
「媚びを売るな」
「本当ですよ。一昨日の男子の取っ組み合い、見ててドキドキしました。誰が勝つのかなって」
「それは良かった」
「私、先生に出会えて良かった」

それから少しだけ間があって、先生が「早く教室に戻りなさい。もうチャイムが鳴る」と言ったから素直に部屋を出た。




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