-55 零落

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胡蝶しのぶさんはとても若い人で驚いた。
きっと自分と同じか、違っていても二、三の違いだろう。
そんな女性が最前線で活躍していることに引け目を少し感じる。

杏寿郎さんのことを詳しく聞いても、私にはなぜ彼がまだ生きていられるのか理解できなかった。
目だけではなく腹部に穴があるなんて。
ぞっとした。
もう彼を楽にしてあげたい。
ひとおもいに殺してあげてほしい。
あと少しでそんな言葉が口から飛び出してしまいそうだった。


少しの時間で私の血液を調べてもらい、偶然にも杏寿郎さんと私の型が同じことが判明したのだ。
早速私の血を採血してもらった。
はじめてだから体調が悪くなるかもしれないと、ベッドに寝かされた。

「ふらふらしたりしますか?」
「いいえ。大丈夫です」
「なら良かったです」

そこで私は胡蝶さんにこの蝶屋敷へ通わせて欲しいと直談判した。
定期的に血を分けるため。
杏寿郎さんへの輸血のために、私の血を使って欲しい。


「家の勤めもありますので、毎日とは言いません。どうか通わせてください。そして私の血を彼に使ってやってください」

精一杯のお辞儀をする。
けれど胡蝶さんはなかなか首を縦に振ってくれない。

「名前さん、無理してはいけませんよ」
「無理はしません。絶対に。もし杏寿郎さんが目覚めた時に私が弱っていては彼がきっととても心配します。彼にこれ以上心配させるような真似はしません」
「名前さん…」
「お願いします、胡蝶さん」
「……わかりました」

とうとう胡蝶さんが承諾してくれた。
それに伴って注意事項を何点か教えてくれる。
絶対に無理をしないようにと念を押された。


「行けない日はこの鴉を送ります」
「煉獄さんの鎹鴉ですね。そうしましょう」
「胡蝶さん、すみませんがうちの夫をよろしくお願いします」

感謝の気持ちを伝えるために今日一番、深く深くお辞儀をして部屋を出ようとした。
胡蝶さんが「もう行かれるのですか?」ときょとんとする。

「これ以上あんな姿の彼を見ていたら、自分を保てなくなりそうなので…すみません。薄情な嫁ですよね」


その言葉に胡蝶さんは無言で首を振って微笑んでくれた。
彼女に任せるしかないのだ、今は。
自分にできることなんて彼女に比べれば全然ない。
無力な自分を悔やんだ。



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