end. Like a bouquet

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恐る恐る目を開くと、私の手首を握っているのは義勇だった。
戸の隙間から漏れる月の光でうっすらと確認できる義勇の顔。

「まさかおまえに襲われるとは思わなかった」
「ぎ、ゆう」

驚いてしまって腰が抜けた。
すとん、とその場に倒れ込む。
義勇は慌てて部屋の明かりをつけてくれた。

明るくなって気づく。
髪が短くなっている。
それに、腕が……


「ぎ、義勇…どうして」
「待っていて欲しいと伝えたはずだ。遅くなってすまない。やっと名前の元に来れた」
「生きてたの?」
「…ああ」

少しむすっとして義勇は大きく首を縦に振った。

隣にしゃがんだ義勇の、失われてしまった腕の方の袖をそっと掴む。
よく見れば顔にも、身体中に傷がある。

「か、勝ったの?」
「ああ」
「もう、どこにも行かない?」
「ああ」
「義勇っ」


やっと状況が飲み込めて、歓喜に体が震えた。
帰ってきた。義勇が。
抱き付けば少し薬の匂いがするが、やっぱり義勇の香りがする。
深呼吸する。
義勇だ。本当に義勇。帰ってきてくれた。


「、ぎゆう、私、ずっと待ってたよ」
「ありがとう」
「義勇…!」
「名前」

名前を呼ばれ、体を離された。
正面で彼をじっくり見れば、最後に会った時よりも穏やかな顔をしていた。
本当に何もかも終わったんだなと実感する。


「名前、伝えたいことがある」
「…うん」
「俺は名前がずっと好きだった。すまない、今までずっと言えずにいた」
「義勇…」
「俺は長く生きられないかもしれない。それでも、俺と一緒に居てくれないか。俺と共に生きて欲しい」
「当たり前でしょう。私も、ずっと義勇が好きだったよ。ありがとう義勇。だいすき」

もう一度、胸に顔を埋める。
今日、この瞬間をずっとずっと待っていた気がする。



○○○


「母上、私も手伝いたいですっ」
「大丈夫よ。美々子は弟の面倒を見ていてくれない?すぐに家の中を散らかすんだから」
「わかりました!」

長女である美々子も3歳になると、私の手伝いをしたがって後をついてくるようになった。
それでも言いつけを守って、弟の面倒を見るために部屋に走って向かった。
見ていて転ばないかヒヤヒヤするが、義勇に似ているのか運動神経がいい。

それを見送って朝餉の支度だ。
今日は義勇の大好きな鮭大根にしようと決めている。
お客さんの1人が鮭を分けてくれたのだ。
高価なものなのに申し訳ない。


「あ、そうだ。美々子〜」
「はいっ」

お返事よく、隣の部屋から顔を出す美々子。
可愛らしい愛娘。

「父上が寝てると思うから、起こしてきてくれる?もうすぐご飯だよって」
「はーい」

寝室の方からパタパタと美々子の愛らしい足音と、擦るような義勇の足音が近づいてくる。
「今日のおかずはなんでしょー」と娘に問われて戸惑っている義勇の声が聞こえてきた。


「おはよう、あなた」
「…おはよう、名前」


朝日に照らされて、寝癖をつけた義勇が娘を抱いて現れた。
いい天気になりそう。
家族4人で、今日は鱗滝さんに会いに行くつもりだ。




end


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