-42 曇天

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雪がぱらつく頃。
ここ1週間、朝の起きがけは血圧がなかなか上がらないのか決まった時間に起きれなくなってしまった。
今年は例年に比べて冷え込んでいるらしく、雪の量も多い。
布団を暖かくして寝ても、どうしても朝になると部屋がキンキンに冷えている。
どうしようもないので毎朝ちゃんと起きることができる千寿郎君に起こしてもらうことになった。

最初、千寿郎君は私が何か大きな病気をしてるのではないかととても怯えていた。
病死した母親のこともあって敏感なんだろう。
とても申し訳なく思い、別に病気という訳ではないことを時間をかけて説明した。
体質だから仕方ない、毎年ここまでじゃないが今年は一層冷えるからだと思う。
そう何度も伝えれば少しは納得してくれたようで、毎朝起こしてくれる。

「むしろ血圧が高い方が怖いのですよ」
「そうなんですか…父上は大丈夫でしょうか」
「そうですね、少し心配ですね」

なんて言いながら朝の支度をしていると、玄関先から「ただいま!!」と大きな声。
杏寿郎さんが思ったよりも早く帰ってきたようだ。


2人で玄関まで迎えに行くと、肩に雪を乗せた杏寿郎さんが立っていた。

「雪を払ってから入ってくださいね」
「む、払った」
「肩にものってますよ」
「おお!気づかなかった!」

杏寿郎さんは千寿郎君に任せ、みんなの朝食を用意する。
手がかじかんで中々上手く盛りつけられない。
早く春になってほしい。
もうすぐここに嫁いで一年になる。
気持ち上ではもう何年も経ったような気がしている。


「名前」
「あ、はい」

隊服から着物へ着替えた杏寿郎さんが顔を出した。
お腹が減ってつまみ食いでもしに来たのかと思って振り返れば、意外にも神妙な顔つきだった。

「どうしました?」
「千寿郎から聞いた。最近体調が悪いらしいな」
「…えっと」

納得してくれたと思っていたが、やはり不安だったようだ。
きっと頼れる兄に話して安心したかったのだろう。
まだ千寿郎君は子どもであるから仕方ない。
目の前でいつになく真剣な顔をしている杏寿郎さんにもじっくり時間をかけて説明しなくてはいけないなと思った。


「その話は後でちゃんとします。まずは朝餉ですよ。朝のご飯は大切ですから。杏寿郎さんの分もちゃんと間に合いましたよ」
「うん…」

珍しく杏寿郎さんの元気がない。
なんだか大事になりそうで焦ってきた。


4人向かい合って黙々と食事を取る。
杏寿郎さんの「うまい!」が今日は聞こえないから、千寿郎君もお義父様も少し様子を伺うようにきょろきょろしている。

早く誤解を解かなければ。
このままではいけない。絶対に。
そう思って必死に箸を動かした。

急ぎすぎたせいで少し私がむせた時、似た髪色の3人がびくりと肩を揺らす。
そして珍しくお義父様が私の方をちらりと見た。

「おまえ、ややが出来たんじゃないのか」



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