1.仏滅
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私には前世の記憶がある。
小さい頃に見たテレビ番組で明治から大正時代の特集をしていて、それをぼーっと眺めていたらふわっと思い出したのだ。
一度ちょっとしたことを思い出すと後から滝のように思い出が頭の中に落ちて来るようで、20歳になった今ではほとんど忘れていることなどない。
逆に現代では忘れっぽいのは、脳にたくさんの記憶を詰め込み過ぎているからかもしれない。
前世で私は4歳年上の男性と許嫁関係にあった。
燃えるように美しい髪の持ち主で、そして鬼を狩る仕事をしていた。
昔話のようなことが実際に起きていたということを知るのは私と、あとどのくらいいるんだろう。
もちろん現代で「鬼は本当にいた」なんて言ったら精神科にでもぶち込まれかねない。
他人に前世の記憶があると言ったことは幼い頃に両親にちょっとだけ言ったくらいか。
たぶん両親たちも信じていない。
話は戻って許嫁のことだ。
お互いにまだ若かったこともあって、正式に夫婦になるのは彼が20歳になってからという約束だった。
そして彼は20歳になって、私を迎えに来てくれるはずだったのに…。
迎えは来なかった。
彼は20歳で死んでしまった。
なんであのタイミングだったんだろうと未だに悔しい気持ちになる。
私たちはたしかに愛し合っていたし、とても気が合っていた。
彼が死んでからも私は生涯独身を貫いた。
もちろん彼以上の人が見つからなかったからだ。
そんな思い出を携えて私は今まで生きてきた。
おとぎ話や昔話を真実だと信じて。
前世の記憶があるくらいだから当たり前なのかもしれない。
そんな夢見がちな私は昔から占いやスピリチュアルが大好きだ。
女子なら大半が好きだと思う。
前世では粛々と生きてきた反動で、現代では色んなことに挑戦したくて仕方がない私は大学に通いつつ、占い師育成所にも通い始めた。
18から通い出して2年になる。
筋がいいと褒められて、最近はアルバイトとして駅前のビル内で占いを始めた。
私の通う育成所が運営しているちょっとした占いブースで、占い師の何人かが仕切りを挟んで並んでいる。
普通の占い師よりも安い金額で占えるという事で、学生を中心にお客さんは途切れることなくやってくる。
ちなみに育成所はそのビルの最上階に位置している。
今日も大学終わりに占いブースに座って客を待つ。
窓から外を眺めると、空は真っ暗だがネオンが眩しい。
人間はクリスマスが近いこともあってみんな浮き足立った様子だ。
サラリーマンたちが飲み会だろうか、数人固まって動いている。
その中の1グループが占いの看板を指差してわいわいと自動ドアから入ってくる。
女の子が2人と、男性が3人。
その中にいたのだ。
あの頃と同じ、燃えるような美しい髪をした人が。