ネクタイ

※現パロ



好きな人のネクタイを選ぶのが小さい頃からの夢だった。

「杏寿郎さん、これはどう?」
「んん…、俺にこんな可愛らしいの似合うのか?」
「可愛らしいって、これはガンクラブっていう柄なの。男性の服にもよく使われるよ?」
「そうなのか?」
「じゃあこの色ではどう?」
「いいと思う!」


こうして恋人の杏寿郎さんと一緒にネクタイを選ぶ時もあれば、自分で勝手に買って来ることもある。
彼は一緒に選んだ時は自分の意見を言ったりするが、私が選んだものならなんでも付けてくれる。

テディベアのワンポイント付きのだったり、サツマイモ柄だったり。
それでも「ありがとう!」と大きな声で感謝してくれる。


〇〇

「ねえ、煉獄せんせ、そのネクタイすごく似合ってますね」



毎朝彼のネクタイを選ぶ。

彼は中高一貫校で歴史の教師をしている。
いつもアイロンがけされてシワ一つないワイシャツと、ネクタイに合った色のパンツを履いていく。

クローゼットの前でじっとしている私を見て、彼は嬉しそうに笑う。

「いつもそんな真剣に選んでもらって、俺は幸せ者だな!」
「ええ?なにそれ?」

杏寿郎さんが幸せだと言ってくれるならそれでいいけれど。
私にとって、このネクタイを選ぶ行為は超重大な事なのだ。


〇〇

「ん?ああ、何か言ったか?」
「もう、聞いてなかったんですか?」
「すまん」
「せんせいのネクタイ、すごく似合ってる」
「そうか?ありがとう!!」
「どこで買ったんですか?」
「うーん、これは俺が買ったんじゃないから分からないな」
「……誰が買ったの?」
「…彼女だ」
「……彼女?」
「ああ。周りの生徒たちには内緒だぞ?」
「…せんせい、彼女、いたんだね」



きっと学校の女子生徒の中には本気で杏寿郎さんを好きになってしまう子がいるだろう。
だってあんなに魅力的な人なんだもの。
しょうがない。


女の子はみんな恋の駆け引きに関してはとても賢い。

きっと、まずは好きな人の好感度を上げるために行動するだろう。
例えば…
「今日のネクタイ似合ってますね」とか。


杏寿郎さんはワイシャツにネクタイだから毎日お洒落な服を着たりするわけじゃない。
髪型もいつも同じ。

となると、褒めたり話のネタにするのは唯一毎日変わる「ネクタイ」だけ。
その時にどれだけ私の存在を知らしめることが出来るか。
そこが重要だ。


〇〇


「せんせいは、彼女さんと長いの?」
「…そうだな。長い方かな」
「どんな人?」
「綺麗で、凛としてて、かっこいくもあり可愛くもある」
「…ふーん、じゃあ、」
「もういいだろう?ほら、問題は解けたのか?」
「んー、まだですー」
「これじゃあ補習は終わらないぞ?」
「いいのー」
「よくない。俺は早く帰りたい」
「…酷い」
「すまんな。俺は名前に会いたくて仕方ないんだ」
「名前って、彼女さんの名前?」
「…ああ。悪いな、つい口から出た」
「…」




杏寿郎さんが帰って来る時、靴の音ですぐ分かる。

「ただいま!」
「おかえりなさい」

家に帰って来るとすぐに手洗いうがいをして部屋着に着替える。
その間に夕ご飯を用意する。

私も仕事をしてる身だからお惣菜もあったりするが、杏寿郎さんはいつも「ありがとう」と言って全部しっかりと食べてくれるのだ。


2人で選んだテーブルとイス。
いつもの席に2人。
「いただきます」と声を合わせる。

今日の献立はごはん、じゃがいもの味噌汁、チキンカツ、トマトサラダ、冷奴。


「そういえば今日、生徒にネクタイを褒められたんだ」
「生徒に?女の子?」
「ああ!やっぱり女性は身なりをよく見てるんだな」
「そうね〜」
「君が選んだと言ったらとても興味津々だったよ」
「…そう」


ほらね。
杏寿郎さんは本当にモテるんだから。
気をつけないと。



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