7. Embrace change
.
(ああ、私は死ぬんだ)
訪れるであろう痛みを目を瞑って待った。
「…義勇?」
でも、私は痛みなんて感じることはなかった。
かわりにとても落ち着く香りがした。
義勇の匂いだ。
「義勇!どうして!」
「おまえが動かないからだ」
義勇が私を庇い、左腕からは血が滴り落ちている。
自分のせいで義勇が怪我をした。
突然3年前のあの日を思い出す。
錆兎が死に、涙を流して暴れていた義勇。
そんな義勇が今自分を犠牲にして私を守ってくれた。
ずっと守らなきゃいけない存在だと思っていた自分が恥ずかしくなる。
もう義勇は立派な男になっていた。
「俺の背後にいろ。すぐ終わらせる」
「義勇…」
驚くほど俊敏な動きで鬼との距離を詰めると、義勇は青白く光る刀を振るう。
まるで舞をみているようにしなやかだった。
茫然としている間にも鬼は首を切られてボロボロと姿を失って行く。
最初に見た老婆の面影はない。
口を開けたまま突っ立っている私の元へ義勇は帰ってくる。
未だに血が滴っている。
「義勇!手当てをするから家に来て」
「…」
荒い息を押さえ込むように口をぎゅっと閉じて下を向いたままの義勇。
それでも手を引くと後についてきた。
急いで家に戻り、湯を沸かす。
義勇を今に座らせて部屋の奥から売り物ではない薬箱を取り出した。
義勇が鬼殺隊に入ったばかりの頃はよく怪我を作ってやってきていた。
その度に私か、私の祖父母が手当てをしていた。
いわば義勇専用の薬箱のようになっているが、最近はめっきり使うこともなくなり、部屋の奥へと終われていたものだ。
「ごめんなさい。私のせいで…」
「違う」
「痛む?」
「…大丈夫だ。おまえは怪我はないのか」
「ないよ。義勇が守ってくれたから。ありがとう」
今になって体が震えてきた。
義勇がいなかったら死んでいた。
恐ろしさで自然と涙が溢れてくる。
拭っても拭っても溢れる涙を放置して義勇の傷口の治療をした。
傷口に私の涙が落ちる。
「ごめん。しみるよね。ごめんね…」
「…」
謝れば謝るほど感情が昂り、抑えが効かなくなった。
包帯を巻いた義勇の腕にしがみついて声を上げて泣いた。
みっともない。
そう思うのに止められなかった。
「…名前」
「…義勇?」
突然私の肩を義勇が強い力で掴んだ。
驚いて顔を上げると、驚くほど違い距離に義勇の顔がある。
そのままゆっくりと後ろに押し倒されているのがわかった。
涙も止まって、ただ義勇の顔を見つめるしかない。
ギラギラとした彼の瞳からは目を逸らすことができなかったのだ。