戦国BASARA | ナノ

そのお方は、お父上に負い目を感じていらっしゃるようだった。

「この三成が、必ずやお守りいたします」

秀吉様の御子息、なまえ様。
このお方はいつも自分を軽んじていらっしゃる。
家康が豊臣に反旗を翻し、日の本に泰平を布くと謳い秀吉様を亡き者としたあの時も、なまえ様は豊臣を見捨てよとおっしゃった。
徳川は世の流れをも味方につけている、もう豊臣は落ちぶれるだけだと、表情一つ変えることなく仰ったのだ。

秀吉様が大義を為したことが、なまえ様の背に重く圧し掛かっていらっしゃるのだと刑部は言った。
己がそれほどまでに大きなことを為す器ではないのだと、そう思っていらっしゃるのだと言う。

「治部」
「は」
「僕のことはいい。お前の目的を果たしに行け。あの男を殺してやりたいのだろう」
「…しかし、秀吉様の御子息であるなまえ様をお守りすることもこの三成の役目。貴方様をお一人にするわけにはいきませぬ」

私の言葉に、眉を顰めるなまえ様。
なまえ様、私は決して、貴方様が秀吉様の御子息でいらっしゃるからお守りしたいと申しているのではありません。
家臣として、あるまじき思いを貴方様に抱いているのです。
貴方様にこの先を生きていってほしいと願っているのです。
貴方様は、死ぬにはまだ年若くいらっしゃる。
この三成が必ずや貴方様をお守りし、再び昔のように笑まれる世をお創りします。
そのためには、私は命を惜しみなど致しませぬ。
貴方様の為ならば、あの家康の手にかかることにすら、悔いは感じないのです。

「徳川がこの城に攻めてくるそうではないか。どうせ僕は殺される。だからお前は存分に徳川を甚振ってやれ。殺せばいい。お前の命は豊臣秀吉のために使うべ、」

「敵襲ーッ! 徳川軍が城攻めを始めている! 各自守りにつけ!!」

「…」
「…なまえ様、この御部屋よりお出にならぬよう。私はこの城と貴方様をお守りいたします」
「…そうか。なれば、治部、徳川を殺してこい。お前の望みを叶えやれ」
「…御意に」

家康を殺すことで、貴方様のお顔が晴れるのならば。
父である秀吉様に負い目を感じていらっしゃったとは言えども、それでも秀吉様を慕っていらっしゃったなまえ様。
ああ、ああ、家康め、貴様への恨み辛みが更に深くなる。
私から大切な絆を奪うだけでなく、大切なお方のあの笑みですら奪うのか。

「私は貴様を許しはしない…! 家康……!!」
「三成!」
「ここは関白殿であるなまえ様がおはする神聖なる城! 今すぐここを出ていけば三度殺すだけで許してやる!」
「…そうはいかない。民の不安を払拭するには豊臣が上にいてはならないのだ…!」
「貴様………ッ!!」

頭に血が上り言葉を紡げない。
この男はなまえ様を根の国に送るつもりなのだ。
私の、大切なあのお方を。
優しき声で私を呼ぶ、愛しきあのお方を。
私から、奪うつもりなのだ。

「秀吉様、なまえ様、あの者を斬滅する許可を私に…!」

必ずや、必ずや、貴方様をお守りいたしましょう、なまえ様。
お部屋でお待ちくだされば、この三成が、貴方様の仇を討ちます故。
貴方様が失せる必要など、この世にはないのですから。

長き夢見し


「治部」
「は」
「父上は、幸せだろうな。お前のような家臣を持てて」
「なんと…! もったいなきお言葉!」
「そして僕も、誇らしいぞ。父上の左腕として活躍しているお前の姿を見るのは。これからもその力、大いに奮えよ。僕はお前を、ずっと、見ていよう」
「もったいなきお言葉…!」

花が綻ぶように笑みを零し、私の頬に、私のものよりも幾分か小さな手を添えるなまえ様。
その目に宿る光はどこまでも深く、優しく、明るく。
その光を絶やしてしまった償いも出来ず、あのお方を一人残し、私は逝くのか。
血が地を這う。
遠くから、私を呼ぶ声が聞こえる。

「…残念だったな、治部。結局お前は僕を守れなかった。だが安心しろ。僕がお前と死んでやる。なあ、三成」

頬に、温かな滴が落ちた。
音となった私の名を聞いた途端に、涙が零れ落ちる。
ああ、ああ、なまえ様。
根の国でもし、また謁見する機会がございましたら、その時は。
この胸に宿る邪な思いを伝えてもよろしいでしょうか。


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