指先 | ナノ
「ふっ!」
「脇が甘いぞ」
「あだッ!」

紀之介に向かい木刀を振るう新三郎。
その体は隙だらけだ。
もちろん、そんな隙を紀之介が見逃すわけがない。
鋭く、新三郎の脇を薙ぎ払う。

「ぬしはこと武芸となるとその才を隠すな」
「長秀さまの下では兵站しかやったことがなかったんだ! 磨けば俺だって強くなるぞ!」
「新三郎、立て。次は私が相手をしてやる」
「ええ…佐吉かよぉ…」

愚図っている新三郎の尻を蹴り上げる。
紀之介には進んで稽古を頼んだくせに!
私に相手してもらうのは嫌だと言うのか!

「何故私だと嫌がる」
「だって佐吉、居合いがすごいだろ! 普通に刃を出して斬りかかってくる相手ならまだ楽なのに、居合い相手は難しいんだ!」
「戦場ではいろいろな型を使う敵がいるんだぞ! そんなことを言っていてはすぐ死ぬぞ!!」
「う、ぐ…っ」
「半兵衛様にあれほど頭脳を褒められていたのだ、戦場には出ずに軍師などで秀吉様の為となれば良いだろう!」
「そっ、それじゃあ佐吉や紀之介を守れない! 俺は二人に死んでほしくないから戦おうと思ってるんだ!」
「な……」

立ち上がりながら怒鳴るように放たれた言葉に頬が赤くなるのを感じた。
何を言うのだ、こいつは!
いつもいつも平気な顔で恥ずかしいことばかり言いよって!

「ヒヒヒッ…ぬしは本に馬鹿正直な者よな」
「なにが?」
「武芸など苦手であるのに急に稽古をつけてくれと言うから何かと思えば…。そんなことのためだったのか」
「そんなことじゃない! 紀之介はあと一、二年で元服だし、三成は同い年でも腕が立つ。俺は元服までまだ数年はかかるし、弱い。二人に遅れを取ってる。だから、一緒の戦に出られるようになったら二人を守れるように…せめて、足手まといにならないようにしたいんだ」

待ってるだけは辛い。怪我して帰ってくる姿を見るのはもっと辛い。
そう言い、プイと顔が反らされた。
新三郎の言葉を聞いていた私たち二人は顔を見合わせる。

「何故急にそんなことを」
「…秀吉さまが、」
「秀吉様が何かおっしゃられたのか?」
「この乱世、頭脳だけで大切なものは守れない、って。そう忠言していただいたんだ」
「……………」

恐らく、新三郎は秀吉様が奥方を殺めたことを知っているのだろう。
愛が人を弱らせるとお考えになった秀吉様の決心。
それを知っていたから、その覚悟を知っていたから新三郎も考えたのだろう。

「理由は気に食わぬが、自ら武器を手にしたことは褒めてやろう」
「え?」
「この乱世、軍功を上げてこそ主君のためとなる。私たちは秀吉様のために刀を振るうのだ。これからは、私たちを守るためとは言わず、秀吉様のためと思え」
「………」

言うと、新三郎は目を泳がせた。
…こいつ、私の言いつけを守る気はないな。

「もとより貴様からは秀吉様への忠義があまり感じられない」
「…まだ長秀さまの下から来てから少ししか経っていないし」
「それにしてもだな、」
「そう虐めてやるな、三成。本人の言う通り、忠義や忠節を抱くにはまだ日が浅い」

立ち上がり、やる気なさげに木刀を構えていた新三郎の着物を整える紀之介。
…こいつは新三郎に甘い。城の者の中でも幼気だからだろうか。
助け舟が入って、明らかにほっとした様子の新三郎。
苛立ったのでとりあえず睨みつけておく。

「ほれ、新三郎。われらを守りたいと言うのだったら鍛錬に励め」
「う…はい」
「構えろ」
「お手柔らかに…!」

目に見えて腰が引けている新三郎に一発入れてやるまであと数瞬。

文武両道


「うあぁ…。見て、紀之介! この腹! 変な色の痣!」
「ふむ、これは酷い。今日はよく冷やせ。そして、袂をはだけさせるのはわれらの前だけにする方が良いぞ」
「何で?」
「お前の腹は白い。好き物の男に取って食われるやもしれぬ」
「!? 紀之介、貴様、何を言っている!?」
「事実を言うたまで。 …ヤレ佐吉。罪悪感であの痣を見られないのなら、そこまで強く叩かなければよいものを」
「な、ざ、罪悪感など」
「では…新三郎、こちらへ来てそれを佐吉に見せてやれ」
「? ほら!」
「うっ…。……水と桶を持ってくる」
「佐吉がああも反省している。許してやれ、新三郎」
「…紀之介、佐吉には優しいんだね」
「……ぬしらの相手はまっこと疲れる…」


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