指先 | ナノ

「丹羽長秀のもとに仕えていた新三郎くんだ。秀吉直々に取り立てた子だよ。仲良くしてあげてね」

小姓というものが嫌いだった。
見目麗しい、自分と同年の奴らが己を綺麗に飾り立てて、主に媚びへつらう姿を見てきたからだ。
そういう俺も、長秀さまの小姓で、恐らく、衆道の相手として取り立てられたのだと思う。
俺は決して顔が綺麗というわけではない。
ただ長秀さまの好みに合っていたんだろう。

目を奪われた。
前に並ぶ、秀吉さまの小姓たちの中の一人に。
秀吉さまの小姓たちは、他のところのように着飾ってはいなかった。
本当に、能力重視で選ばれたのだと見て取れる。
この竹中半兵衛という方も長秀さまの話によれば、相当な実力の持ち主らしい。
集める将来の将もより優秀な者を、ということだろうか。

…話が反れた。
俺が目を奪われた、その同年だろう少年。
美しい銀色の髪に、吊り上がった目。
何故だか彼の周りがキラキラと輝いている。
その目の真っ直ぐさ。
視線に焼かれるように、胸が熱い。

「…ほら、新三郎くん、君も挨拶を」
「は、はい! 此度、取り立てられた小姓の新三郎でござりまする。元服前故、まだ戦場に出れぬ若輩者ではございますが、どうぞよしなに」

薄らと笑って言うと、あの、銀髪の彼と目が合った。
更ににこりと笑ってみせると目を反らされる。
…俺の笑顔は見れたものじゃないらしい。

「はい、それじゃ各自の作業に戻ってね」

竹中さまの言葉に正座して並んでいた小姓たちがわらわらと立ち上がった。
「佐吉くん」と、澄んだ声で竹中さまが誰かをお呼びになった。
その声に、部屋から出かけていた少年がこちらを振り返った。
──あの銀髪の彼、だ。

「はい、半兵衛様」
「ごめんね、呼び止めて」
「いえ! 何でございましょうか」
「新三郎くんに城内を案内してあげてくれないかな。それと、やらないといけないこととかいろいろ教えてあげてほしいんだ」
「御意に。…しかし、何故私が…?」
「新三郎くんが君を気に入ったみたいだったからね」
「は…?」
「な…!?」

正座したまま飛び上がってしまうかと思った。
まさか、知らぬうちに言葉にしてしまっていたのだろうか。

「な、な、なぜ」
「だって、ずっと佐吉くんを見ているんだもの、すぐ気づくよ」
「………」
「さっ、新三郎くん、佐吉くんについていってね。佐吉くん、よろしく」
「はい」

半兵衛さまの前に正座していた銀髪の彼…佐吉、さんが立ち上がった。
それに倣って俺も立ち上がる。
俺に目もくれず、彼は半兵衛さまに一礼して部屋を出て行ってしまった。
半兵衛さまへの礼もおざなりに彼を追った。

「あの!」
「…………」
「俺、新三郎っていうんだ!」
「それは先ほど聞いた」
「…ええと…改めて自己紹介をしようと思って…ねえ、君は、どこの家の出なの」

何故だか気が昂って声が上擦った。
俺の方を見ずに前を歩く彼に必死に話しかける。
するとピタリと彼が歩みを止めた。
身長差故に走らないとその歩みについていけなかった俺は止まれずにぶつかった。

「ぶっ!」
「石田佐吉」
「え?」
「私の名だ! 貴様が聞いてきたのだろう!」
「え、あ、…石田…さま…?」

触れた体温に少しばかり驚いて、名を告げられたことに意識が向かなかった。
雪のような白い肌なのに、とても温かかった。
敬称をつけるべきか否か。
悩んで、名を読んでから数瞬、遅れて敬称をつけた。
するとギロリと睨まれる。

「同じ小姓という身分だ。呼び捨てで構わない」
「! じゃあ、佐吉!」
「……、…行くぞ」
「ああ!」

目つきも態度もキツいが、しかし何だか憎めない人だ。
佐吉、と何度も呼びかけると目尻を赤くしながら怒ってきた。
佐吉と仲良くなれればいいなあ。

ありふれた出会い


「佐吉っ」
「うるさい! 用もないのに呼ぶな!」
「綺麗な銀髪だな、肌、白いなあ!」
「私に構うな! 今日中に城内の地理を覚えろ!」

「ふふ、あの二人、相性良いかもね」

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