朝の日差しが雪に反射して輝く中、ダイゴくんが立っていたのを見て、綺麗な夢だと思った。夢なら覚めないでほしいと思った。
しかしこれは紛れもなく現実だ。現実の、はずだ。シンオウの冷たい風がわたしを夢うつつから呼び戻そうとしている。
でも、でも。忘れたくても忘れられない人が、こうしてわたしを探してこんなところまで来てくれるなんて。痛いほどに抱きしめて、好きだと言ってくれるなんて。
ありえるんだろうか?本当にこれは現実なんだろうか?自分に都合よく思い込んでるだけじゃ?第一ダイゴくんには…。不毛な問いかけを繰り返した。
玄関でダイゴくんの冷たい体に抱き寄せられたまま、未だに動けないでいるわたし。現状に思考が追いつかなくて、脳が体に信号を送れずにいるのだ。
好き?誰が誰を?
ダイゴくんが、わたしを、好き。
反芻して、唐突に理解する。ぶわっと全身を熱が襲った。ダイゴくんは、わたしが好き。知らなかった、わたしだけじゃなかったんだ。この背中に腕を回してもいいんだ。友達に戻れなくても、いいんだ。好きのままでいいんだ。
安心と期待と不安が綯い交ぜになって、心臓が変な音を立てる。伝えたいことがあるのに、ぼろぼろと涙が溢れてきてうまく話せない。

「っ、わ、たしっも…!」

ようやくそれだけ返して、ゆっくりと背中に腕を回した。
昨日あれだけ泣いたのに、どこからこんなに出てくるんだろう。おかしいな。

「わたし、ダイゴくんには他に好きな人がいると思ってた…!だからっ、あ、諦めなきゃって、ダイゴくんの友達でっいなきゃって」
「ま、待って!なんでそんなこと思ったの」
「あの日、電話…」

嗚咽で上手く喋れないのがもどかしくてダイゴくんの胸に額を擦らせた。
ダイゴくんはなだめるようにわたしの頭を撫でながら、言い聞かせるような優しい声で言う。

「僕が好きなのは…ずっと前から君だけだよ」
「でも、おっ、女の子の声…!ダイゴくんのこと!すごく優しい声で、呼んでた!」
「女の子?………んん、もしかして、ルチアちゃん?」

少し考えるように間を上げてダイゴくんの口から出てきたその名前にヒヤッとした。るちあ、ちゃん。だって、待って。ルチアちゃんって確か、み、ミクリくんの…。
そこでわたしはとんでもない勘違いをしていた可能性に辿り着いた。さっと血の気が引いていく。
あの日ダイゴくんの家にいたのは、ダイゴくんの恋人でもなんでもなく、さらには二人きりですらなかったのではないか。あの場にはミクリくんもいた…?
じっと見つめると困ったように眉を下げながら教えてくれる。
あの日はダイゴくんの家でパーティをしていたこと。それはリーグの関係者…四天王やジムリーダーたちや身内を呼んで行なわれたのだという。ホストなのに席を外していたダイゴくんを、ミクリくんの代わりに探しに来たルチアちゃん…の声が、ポケナビを通じてわたしの耳に入った…。
ダイゴくんはわたしに、「チャンピオン」や「デボンの御曹司」である自分を知られたくなかったから誘えなかったらしい。友達だったのに、ごめん。ぽつりと呟かれた謝罪。

「ルチアちゃんはミクリについてきたんだよ」
「わた、し、勘違い…?」
「うーん…すごく言いにくいけど…そう、なるかな」
「……!」

がつんと頭にイシツブテが落ちてきたようだった。わたし、ほんとになんて勘違いを。今度は恥ずかしさで体が熱くなっていく。
ダイゴくんの目を見ていられなくなって俯きながら体を離そうとした。が、強く抱き寄せられて叶わなかった。

「だめだよ、僕は君を捕まえるためにここまで来たんだ。そんな簡単に離してあげないよ」
「だ、いごくん…」
「お願い。捕まったままでいて」

そんなの、ずっと前から捕まってるよ。



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