「これだけ探しても手がかりすらないとは…あの子はかくれんぼの名人かなにかだったかな」
「こうも見つからないとそんな気がしてくるよ」

思わず深い溜息がこぼれた。

「会ったら絶対に文句を言ってやる」
「そうだね。思いっきり言ってやろう」

絶対に捕まえると意気込んだものの、いなくなったななしを探すのは思った以上に骨が折れた。
なんせポケナビはあの時から繋がらないままだし、実家も知らない。ポケモンセンターも利用していないのか、どこへ足を運んでもななしに会うことはできなかった。僕もミクリもあちこち探しまわったけれど、ちらりとも姿を現さない。焦りばかりが募っていく。
例えホウエンがどれだけ広くとも、これだけ探して会えないなんて。彼女はどこに行ってしまったんだろう?
仕事もそこそこに窓の外を眺めていると、ポケナビが着信を知らせた。数日前に会ったばかりのミクリからだった。

「ダイゴ、ようやくななしのいる場所が分かったよ」
「!」
「どうやらシンオウにいるらしいんだ」
「…え?シンオウ…なんでまた…」
「よっぽど私たちに会いたくないようだね」
「みたいだね」
「まったく、ななしもずいぶん長いこと逃げまわってくれたな」

呆れたようにミクリが言う。
本当だよ。まさか、ホウエンを出ていたなんて。探したって見つからないわけだ。
僕の興奮に気付いたのか、ボスゴドラのボールが揺れた。大丈夫、もうすぐ会えるさ。

「どうするんだい?」
「もちろん会いに行くよ」
「また逃げられるかもしれないよ」
「ふふ、そうかもね」
「まあ…君たちならなんとかなるさ」

僕もそう思う。
この先どうなるかは分からない。けど、なんとかなる気がした。だって僕たちは友達だ。僕の気持ちが伝わらなくてもいい。前みたいに一緒にいられれば。
でも一言怒らせてほしいな。心配させないでって。ああ、逆にななしに怒られるかもしれないな。ダイゴくんだってわたしたちに心配させるくせにって。

そう思ってここまで来たのに、会ったら駄目だった。真っ白な雪の上に転がるポフィンも、部屋の中からこちらを窺うジュカインも、意識から無理やり追い出された。僕の中を占拠するのは目の前にいる彼女だけ。
やっと、会えた。
芯まで冷えていたはずなのに、奥の方から熱が溢れてくるようだった。耳元でどくどくと心臓の音が大きく聞こえていた。

予想もしていなかっただろう来客にななしは赤くなった目を見開いて固まったまま。
なんだか昔より小さく感じるのは僕が大きくなったからだろうか。一緒に成長していけるはずだった空白の時間を思うと息が詰まって、久しぶり、という声が少し震えてしまった。ああ情けないな。
僕は泣きそうになるのをぐっと堪えて、どうにか笑顔を作った。

「こんなとこにいたんだね」
「だ、…いご、くん」
「僕も…ミクリも、ずいぶん君を探したんだよ」

ななしはぎゅっと手のひらを握りしめて俯いた。
君は何を抱えてるの?それは僕にはどうにもできないんだろうか。

ななしが目の前にいる。そう思ったら我慢できなくて、衝動のままにななしを抱きしめる。強く好きだと思った。

「だっ、ダイゴくん?!」
「泣いたの?」
「え?」
「目、腫れてるよ」
「…うん、そうだね」
「いや、違うな。こんなことを言いに来たんじゃない」

僕、君に言いたいことがあってここまで来たんだよ。
どうして急にいなくなっちゃったの?
ずっと探したんだよ。
僕もミクリもすごく心配したんだ。
僕は君になにかしちゃったの?
どうして泣いてたんだい?
何を考えているのか教えてほしいよ。
君は冷えきっていた僕に熱を教えてくれたんだ、すごく嬉しかった。好きだよ、ななしが好きだよ。
言いたいことがいくつもあって、でもどれも言葉にならない。たくさん怒ってやろうと思ってたのに。

「…ぼく、僕は…」

好き。好きだよ。僕はななしが好き。雪を踏みしめながら、気持ちを押し込めながらここまできたのに。ようやく出てきたのは、これだけだった。

「ななし、好きだ。離れて行かないで」

僕から、僕の熱を奪わないで。僕が初めて手にした熱を。



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