【燭台切光忠】

今朝、梅の枝に巻き付けられた文を見つけたのは光忠さんだった。うららかな日差しに照らされていたそれは、枝の深い色との対比で自分を主張していたという。
君に宛ててだよ。そう言って渡された紙を開いてみればそれは紛うことなき恋文とやらで、自分がもらうことがあるだなんて思っていなかったから少し驚いた。
中を見ずに主に渡すということはないだろうからきっと彼も内容を知っているはず。だというのに、光忠さんはけろっとしている。今日のお昼は何がいい?だなんて。仮にもあなたの恋人が文をもらったんですよ。そんなに普通にされたらなんだか面白くない。

「あ、あの」
「なんだい?」
「中、見たんですよね?」
「ああ、ごめんね。確認もせずに主に渡すのは流石にまずいと思って」
「あっ、いえ、それはいいんですけど…」
「うん?」

不思議そうに首を傾げている光忠さん。中、見たんだよね?この人は何も思わないのだろうか。やっぱりわたしなんかよりずっとずっと長く生きているから違うのかな。ちょっと、なんていうか、わたしばっかりこの人を好きみたいじゃないか?不公平だ。むくむくと膨れ上がる嫉妬心。普段なら子供じみたことを言って光忠さんを困らせまいと飲み込むところだったけど、幼稚な自分が囁いた。ヤキモチを妬かせたいと。

「お返事したほうが、いいですよね」
「…そうだね」
「嬉しかったですーって、」

最後のほうは言葉になっていたかも分からない。くらくらするような香りが近付いてきたと思ったら突然抱きしめられた。光忠さんに、強い力で抱きしめられている。突然の展開に思考が止まる。

「ひゃぅ」
「嬉しかったの?」
「しゃ、こうじれい、と、言いますか、光忠さんにヤキモチを妬いてほしかったと言いますか、あの、あの」
「うん」
「わた、わたしばっかり好き、みたい、で」

顔に熱が集まっていく。ひどく熱い。脳で精査する前に感情が言葉になって口を滑り抜けていってしまう。

「…ずる、い」
「まさか!むしろ僕の方が重たいくらいだよ」
「え?」
「あんまり、文をもらって嬉しそうにしないで」
「し、てましたか?」
「ちょっとね」
「そんなつもりは」
「なかったかもしれないけど。そんな風にされると不安になっちゃうよ」

畳に押し倒されて耳元に直接吹き込まれる。はしなたい声が喉から飛んできた。

「あっ、」
「君の前では本当に格好がつかないな」

光忠さんの指先が入り込んでくる。熱に浮かされながら思った。わたしも、あなたの前では冷静でいられなくなるのにって。



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