僕の甘い願いが打ち砕かれたと気付くのには随分と時間がかかった。いつまで経ってもポケナビが彼女の声を届けることはない。どこにいるかも分からない。ミクリがななしと会ったと言ったとき、きっとその内ななしのほうから連絡をしてきてくれると思っていた。いつものようににこにこ笑いながら明るい声を聞かせてくれるって。
そうしている間に2つの季節が足早に駆けていって、そこでようやくおかしいぞと疑心が湧いてきた。ポケナビが壊れているとはいえ、あのマメな子がこんなにも長いこと音信不通にするだろうか?いや、そんなのありえない。
だけど、ななしの身に何もなかったとしたらあの子は自分の意志で連絡を絶っていることになる。あの時の嫌な不安が帰ってきた。僕はやっぱり、ななしに何かしてしまったんじゃないか?
そうやってぐだぐだ考えている内にさらに2つの季節が逃げていき、まるっと一巡りした。確信を持ってからさらに一巡りしようとした頃、ようやく重たい腰をあげようと思った。もう、待てない。
僕の暗い世界には、あの子が必要なんだときちんと理解した。何もかもが退屈で偽物でハリボテだった僕を変えてくれたのは確かに君だったんだ。ほかの誰でもない、君だったんだ。ねえ、ななし。僕は君がいないとダメなんだ。僕は、君が好きなんだ。
だから今度は僕が君に会いにいく。精々逃げ回ればいい。絶対に捕まえるから、覚悟して。

ポケットに鳴らないポケナビを滑り込ませて部屋を出る。眩しい日差しが一瞬だけ目を焼いた。僕はこの光を取り戻しに行くんだ。絶対に取り戻してみせる。ぎゅっと掌を握り込むと、やるぞ、という気持ちが増した。

「行くのかい?」

まるで分かっていたかのように、ミクリはそこにいた。

「うん。もう待つのはやめるよ」
「随分と重たい腰だったみたいだね?」
「…そうだね。自分でもそう思うよ」

本当に、気付くのが遅すぎた。僕らしくもなかった。ぐずぐず悩んで、待って、また悩んで。もっと思ったままに行動したらよかったんだ。
ミクリが楽しそうに笑う。

「ななし意外と頑固だから、待ってても無駄だったんだ」
「君の世界も、やっと広がっていくんだね。よかったよ」
「君たちのおかけだよ。だから、取り戻してくる。僕の世界の一部を」
「私にできることはあるかい」
「待っててくれ。きっとななしを連れて帰ってくるから。そしたらまずは心配かけるなって怒ろう。それから三人でお茶をして…いろんなことを話そう」
「そうだね。じゃあ、ななしによろしく頼むよ」
「ああ。行ってくる」

ボールから飛び出したエアームドがやる気まんまんで鳴いた。
さあ、ななし。君が捕まるまでこの追いかけっこは終わらない。僕が勝つまで絶対に終わらないゲームを、はじめよう。



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