【鶴丸国永】

仕事もほどほどに部屋でのんびりとお茶を飲んでいたら鶴丸が机に放っておいたらそれを手にしていた。びっくりしすぎて器官にお茶が入り込んだ。

「なあ、君。これは読まなくていいのか?長いこと放っておかれたままだぜ」
「あっ…!えっと、あの、げほっ」
「だ、大丈夫か?」

背中をさすられて呼吸を整える間もわたしの意識は鶴丸の手の中にあった。まずい。鶴丸の手にある文を見てきちんと処理しなかったの自分を呪う。ばか、わたしのばか!
幾日か前にもらってしまったものの、どうしても開く気になれず机の上に放っておいたそれ。彼はそれがなんなのか気付いていないようで首を傾げている。気にしいな鶴丸にバレる前にどうにかあれを取り返さねば。ひやりとした心臓を隠して笑いかける。

「鶴丸、ちょっと見せて」
「見たところ…君に宛てたものだからもちろん構わないが、その前に何か教えてくれよ」
「読んでみないと分からないから、ね?」

平静を装って鶴丸の手から奪おうとするが、叶う前に開かれてしまった。必死に取り返そうとするわたしの手の届かない位置に持ち上げてさっと目を通した鶴丸の表情が一気に曇っていく。

「あ!」
「……君、これを読んだのか」
「まだ読んでは、ない」
「これが何かは…知っているのか」
「いわゆる、恋文、ね」

分かっているならなんで読もうとするんだよとでも言いたげな、鶴丸の恨みがましい視線が痛い。むっと唇を尖らせてわたしを見据える。やましいから隠したかったわけじゃない。こうなるから内緒にしておきたかったのに。鶴丸すごく気にしちゃうから。

「き、君、これを読むのか?なあ、読むのか?」
「鶴丸が嫌がるから読まないよ」
「そう、そうか!そうか!」

不安そうな鶴丸。まるで子供みたいだ。望み通りの答えにぱっと表情を明るくさせる鶴丸にほっと息を吐いた。

「よし、君にはこれの代わりに俺が書いてやろう!」
「うん、お願い」

鶴丸の白く細い指先でくしゃくしゃに丸められたそれがぽいっと屑籠へ弧を描いて消えていった。ごめんなさい、顔も覚えていない送り主さん。わたしは鶴丸しか見えてないのです。


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