※学パロ

表向きはにこにこして、暗いところはすっかり隠す。遠巻きに傍観して深く関わらないのが俺のスタンスだったのに、何故かななしにはそうもいかない。おかしい。

目の前でリナリーとファッション誌を熱心に見ているななしの携帯が震えたのを俺は見逃さなかった。また、あいつか。頭の中を埋め尽くしていく苛立ち。顔には出さないようにしてななしに声をかけた。

「ななしちゃーん、携帯鳴ってるさ」
「え?ほんとだ。ありがとラビ」
「誰から?」
「ん?んー、バイトの人ー」

ふーん。聞いておいて、自分でもどうでもよさそうだなと思う声が出た。両手で携帯を持ってメールを返信する姿はカワイイが、どうにも納得できない。こっち向けよ。雑誌の次は携帯か。リナリーの苦笑いも納得できない。なんさ、しょうがねーだろ。
さっきまで一生懸命スカートがどうだとかニットがどうだとか言っていたくせに、メールなんかあとでいいだろ、にこにこしやがって。しばらくすると返し終わったのか、また雑誌に向かってああでもないこうでもないと口を尖らせる。その唇を眺めていると柄にもなくドキドキした。リップクリームでもつけてんのかな、やわらかそうだ。
指さされたスカートよりも、そのちっちゃな爪がつやつや輝いたほうが気になってしまう。

「ねえ、ラビはどういうのが好き?」
「俺?」
「うん。このスカートどうかな」
「俺は綺麗なお姉さんが好きさ〜」
「もう!そういうことじゃなくて!」
「私は似合うと思うわ」
「本当?どうしようかな、買おうかな」

綺麗な色合いのフレアスカート。きっと似合うだろう。期待した眼差しに鼓動が早まる。
お前が着たらなんでも可愛いよ。言えたら言いのに、ななしには口が裂けても言えない。リナリーにならいくらでも言えんのにな。おっかしいの。
もうラビには聞かない!なんて言われて若干へこむのはいつものことだ。いいんさ、いいんさ、また聞いてくれるから。だとしてもへこむものはへこむんだけどな。
ページをめくると、ななしの目がきらっと光った。

「ねえ、ラビ。じゃあこのワンピースは?」

ほらみろ、カワイイ。自分で今さっき言ったばっかりの言葉なんか気にしてない。俺はそれに振り回されてるっていうのに。ああ憎たらしい。

「ちょーっと短すぎやしないか」
「そうかな?」
「こんなん履いたらぱんつ見えるぞ」
「うわあ…」
「ななしがそんなにぱんつ見せたいなら止めないさ〜」

さいてい!きゃんきゃん吠えながら顔を真っ赤にする。確かに少し短いかも、というリナリーの援護のおかげでそのワンピースからななしのふとももは守られた。
安心したのも束の間、今度は着信を知らせる携帯。

「あ、ごめん電話だ」

携帯を片手に教室を出ていく後ろ姿にうんざりした。俺らしくない、こんなに執着するなんて。

「かれし」
「え」
「…じゃあないわよ、あれ」
「へー、」
「ラビって、こんなに分かり易い人だったかしら」
「うるせー」
「あら怖い。せっかくいいこと教えてあげようと思ったのに」
「…なんさ」

カレシ。その単語にひどく動揺した。なんでもない顔をしようとして、苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。
幼馴染みサマにはなんでもお見通しかよ。こえーおんな。

「知りたい?」
「…まあ」
「あの子はね、」

がら、出ていった時とは違う元気のない音がリナリーの言葉を遮った。ななしが半分くらい扉に寄りかかるようにして立っている。まっすぐ俺を見た。顔色が悪い。真っ青だ。
リナリーが飛び上がるように駆け寄って、ななしの肩を抱いた。呼びかけに何度か頷いて、その場に蹲る。
俺は動けなくて、声も出せなくて、怖くなった。
か細い声がしんとした教室に響く。らび。それは俺の名前だった。リナリーは黙って廊下へ消えていく。もう一度、ラビ、とさっきよりはっきりした声で呼ばれた。その声で体が動いた。隣におんなじようにしてしゃがみこむ。俯いてしまっていて、声がくぐもって聞こえる。今にも泣きそうだ。

「どうした」
「…わたし」
「うん」
「こくはく、された」
「…さっきの電話で?」
「うん」

脳みそをがつんと揺さぶられた。俺だってお前が、好きだよ。その言葉は空気を震わせない。

「どうしよう」
「好きにしろよ、」
「らび、いいの?」
「いいって、何がさ」
「わたしが、誰かと付き合っても。本当に、いいの」
「おれ、には」
「関係ない?」
「…ないさ」
「ほんとに?」

ななしが顔をあげる。瞳がゆらいで、目尻から雫が溢れた。
泣いている。好きな子が、泣いている。そう思ったら堪えられなくて、小さな爪が輝く手のひらをにぎって、強く抱き寄せた。関係ないわけ、ない。

「どうしたいんさ」
「つきあいたく、ない」
「じゃあそう言えよ」
「ラビと、いたい」
「…俺もいたい」
「うん、」

されるがままだった体が、応えるように抱きしめ返してくる。
リナリーの言葉の続きが分かった。あの子はね、ラビの気持ちに気付いているのよ。

「ラビは、わたしのこと絶対好きなのに、絶対に言ってくれないから…怖かった」
「ごめん」
「きっとわたしが告白されても、誰かと付き合っても、きっといつもと変わらなくて、それで、それで、」

おめでとうって、笑うんでしょう。その通りだと思った。俺ならそうするだろう。そうじゃなくちゃ、俺らしくない。

「ねえ、ラビ」

近くにいてよ。
心の距離すら、ななしの前では瑣末なものだった。泣いてる顔もかわいいなあ。
キスしたら怒るだろうか。


みるきぃさんへ!

×