ざわざわと耳に入る声や、グラスがぶつかる音。同窓会で懐かしい面々と顔を合わせながら、思い出に浸る。とろんとしたオレンジの光に照らされて手元の液体が煌めいた。
自分で取り分けなくても勝手に差し出されるサラダや唐揚げたちを胃の中に収めながら、横からの視線を無視した。

「ななし」
「……」
「ななし、もうだめ」
「まだ飲めるのに」

次々にまわってくるジョッキやグラスを受け取るものの、横にいる真琴にとられるか、遥が他の人に渡してしまう。わたしのところに来るのは度数の弱いカクテルかソフトドリンクばかり。
やっとビールがまわってきても、真琴の笑顔や遥のむっとした顔で「だめだ」と言われるとわたしはノーと言えない。次々に流れていくジョッキたち。悲しい…わたしのビール…。

わたしはお酒が大好きだ。飲み会のテンションも大好きだ。ただし、最近はお酒を飲む機会もめっきり減っていた。
お酒は大好きだけど、どうやら弱いらしくて、すぐに酔ってしまうのだ。わたしとしてはそんなに弱いつもりはない。
話によると、すぐに真っ赤になってふらふらになるらしい…記憶にはあんまりないんだけど。一度、べろんべろんに酔っ払ってしまい、自分で帰れなくて友達の家に泊まったことがあった。それを知った真琴がお酒、または飲み会禁止令を出してきたのである。
つまりわたしは自由にお酒を飲むことを許してもらえないらしい。一度こっそり飲み会に言ったことがあるが、それは、もう…。
あっ、思い出したら酔いがさめてきた。
この人たちは、わたしに対して過保護すぎる。そしてわたしも、彼らに甘すぎる。

「ねえ真琴、まだ飲みたい」
「だめだよ」
「あといっぱい、一杯だけ!おねがい!」
「だーめ」

むう、ほっぺたを膨らませても頭をぽんぽん撫でられて誤魔化される。自分は片手にジョッキを持っているくせに。
烏龍茶を口に含みながら周りの話を聞いていると、誠にと遥が立ち上がるのが見えた。

「真琴、そろそろ」
「あ、ああ。そうだね」
「あれ?どうしたの?」
「凛は忙しくて来られてないだろ?だから、このあとハルの家で集まる約束なんだ」
「そうなんだ。行ってらっしゃい」
「なに言ってるの、ななしも行くんだよ」
「えっ、でも、」

せっかくふたりが居なくなって存分に飲めると思ったのに!
さすがに口には出さなかったが、表情に出たらしい。ふたりは顔を見合わせると「だめだぞ」「だめだからね」と声を揃えて言った。どっと笑い声が上がる。わ、笑い事じゃないよ!
わたしがむくれている間に真琴がみんなに声をかけて、ハルがわたしの荷物を手早くまとめた。
彼らがこうなのは昔からなので「お前ら相変わらず仲いいな」だの「ななしそろそろ一人でやらないと」だの、みんな好き勝手言ってくれる!

「ひ…ひとりでできるよ!」
「いいんだよ、俺がやってあげるから」
「できるよ!」
「ななしやまー真琴は優良物件だぞー」
「そうだよ〜橘くんはいいよお」
「もうっ、みんな好き勝手いうんだから!」

こうやって外から固められて、わたしはいつまでもこの、真琴の作った管理下から抜け出せないでいるのだ。



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