「ななし!」
「あ、ミクリくん。久しぶり」

草むらでジュカインの特訓をしていると、柔らかい声が耳に届いた。ついにこの時がきてしまった。振り向くとやっぱりミクリくん。
数は多くなくても、定期的に連絡をとっていた相手が音信不通になったら、普通は心配したり、変に思ったりするだろう。だからこうやって話しかけられるだろうってことは、予想はしていた。
いつもみたいに笑ってみるけど、うまくできてるかな。なんだ、元気そうじゃないか。ほっとしたような声に、わたしもほっとした。大丈夫、笑えてる。

「元気ならいいんだ。ただダイゴが随分心配いていたぞ」

ダイゴくんが、わたしを心配している。
ミクリくんの言葉に嬉しすぎて、呼吸が出来なくなるかと思った。指先がじりじりする。「心配?どうして?」頑張ってそう言うと、ポケナビが繋がらなくて何かあったんじゃないかと言われたらしい。

「ダイゴのやつ、青ざめた顔で言うものだから、最初は何事かと思ったよ」
「なんか、…ごめんね」

そんなに心配してくれたんだ。どきどきが加速していくのが分かる。
自分は平気で連絡を怠けるくせに。ミクリくんは呆れながらそう言った。
どうにか嬉しい気持ちを隠して、困った顔を作った。大丈夫、ちゃんと練習したもの。先に会ったのがミクリくんでよかった。ダイゴくんだったら、うまく笑えた自信がない。
ポケナビが壊れたこと。当分買えそうにないこと。前もって考えておいた通りに話す。

「ダイゴくんは、」

わたしのこと、どうして心配してくれたのかな?言いかけた言葉をごくりと飲み込む。
もう少しここにいるのかと聞かれて、誤魔化した。なんとなく、もう違う場所に行かないとなと思った。きっとミクリくんがダイゴくんにここで会ったことを話して、彼が会いに来てくれる気がしたから。
まだ、ダイゴくんに会う勇気がない。だからここから離れなくては。
わたしはダイゴくんの友達でいるって決めたんだから。

「今日はまだここで?」
「うん。また今度お話しようね」
「ああ、じゃあ、また」

ばいばい。街へ戻っていくミクリくんに手を振った。完全にその背中が見えなくなってから、ジュカインに手を握られるまで、一歩も動けなかった。
早くどこかに行かないといけないのに、嬉しさと動揺で自分の体じゃなくなったみたい。体に詰まっていた息を、ゆっくり吐き出す。すごく体に力が入っていたみたい。

「ジュカイン…行こう」

大丈夫、失恋のひとつくらい、乗り越えて見せる。ただ、やっぱりもう少し時間がほしいの。
ダイゴくんとミクリくんと、前みたいに笑えるようになるまで、少しだけ時間がほしいの。

「わたし、頑張るよ」

ジュカインに微笑んで、自分に言い聞かせるように何度も繰り返す。わたし頑張るから。
だから心配しないで、ジュカイン。不安そうな瞳のジュカインを撫でてあげる。

ここからわたしと、ふたりとの追いかけっこが始まるのだった。



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