せっかくの日曜日も、月子と一緒に選んだワンピースも、早起きして頑張った髪型も、全部がこの空気で台無しだ。せんぱいの、ばか。
それが面白いのか、チラチラと雲の隙間から太陽が様子を伺ってくる。わたしたちは黙って歩いていて、その視線がとても気まずかった。ふと見上げた空ではやっぱり太陽が楽しそうにこちらを見ていて、恨めしい。

はじめは、些細なことだった。わたしがひとりで舞い上がって期待していたのも悪かったと思う。でも、こんなのって、ない。
これは月子が好きそうだ。月子に似合いそうだ。この間これは月子が言っていた。
口を開けば月子つきこツキコ。先輩はいつも月子のことばっかり。でも、今日一緒にいるのは、わたしなのに。
頑張って、張り切ってしまったぶんだけ、行き場のない暗い気持ちがわたしの中を圧迫して蝕んでゆく。
そうだ、そもそもこの人の大切な人は、わたしではない。月子だ。どうして忘れていたのだろう。
そう気付いてしまってからはどう反応したらいいのか分からなくなってしまった。
ふたりの間を漂うのは重く息をするのも苦しくなるような沈黙。結局わたしは、目当てのものも買わず、痺れを切らした先輩が「今日はもう帰ろう」と言うまで、自分のつま先とにらめっこしたのだ。
せんぱいの、ばか。でも本当に馬鹿なのはわたしだ。

そうしてわたしたちは予定よりもずっとずっと短い外出を終え、寮へ帰るべくショッピングモールから離れた。外に出ると、今朝はわたしが天下と言わんばかりに照っていた太陽も空気を読んでますよと雲隠れした。うるさい、見ているくせに。
そんな太陽も飽きたのか、ぽつり、頬に涙を落としてきたかと思うと、まさしくバケツをひっくり返したかのような豪雨にみまわれた。その変化はまさに一瞬の出来事で。気分屋にもほどがある!

「走れっ、バス停はすぐだから!」

叫んだ先輩の声すら雨の隙間に埋もれそうなほど強い雨。前を走る背中を追うようにわたしもかけだすけど、癇癪をおこした雨の中じゃ華奢なミュールではうまく走れない。雨で濡れた前髪を避けた手をぐっと掴まれる。

「ばか!ちゃんと走れ!」
「だっ、て」

それきり前を向いて、先輩はバス停までしっかりとわたしの手首を掴んでいた。なんでこの人はこんなにも優しいんだろう。期待したくなってしまう自分の甘さに頭が痛い。
きっとわたしが、月子の友達だから。考えなくてもいいのにそんなことばかりが頭の中を支配する。

「…すき、なのに」

わたしがあなたを、好きなのに。月子じゃない。わたしなのに。
かき消されるとは分かっていながらも、口にせずにはいられなかった。誰にも言えない、こんな気持ちを閉じ込め続けるのはつらすぎるから。

駆け込んだ屋根の下にはわたしたち以外だれもいなかった。重たい空気がずっしりとのしかかる。
ほんとに、最悪だ。せっかくの日曜日も、月子と一緒に選んだワンピースも、早起きして頑張った髪型も、ぜんぶぜんぶ、ダメになってしまった。それが悲しくて、涙が出た。
つらい。好きなのに、あなたに見てもらえないことが、とてもつらい。自分勝手な気持ちが惨めったらしくて、本当に嫌になる、全部が。

「…言わなくちゃ分からないだろう」

諭すような優しい声音に、無言で首を振る。声を出したら、わんわん泣いてしまいそうで。困った顔をされるのがつらくて、一歩うしろへ下がったら、段差にヒールが引っかかって体勢を崩した。掴まれていた腕を引き寄せられて、勢いでそのまま先輩の腕の中へ閉じ込められる。

「…言わないと、分からないんだ」

い、えない。こんな、自分勝手な、言えないよ。期待したくて、けど怖くて、ますます動けなくなる。
強く抱きしめられたその檻の中で、わたしは酸素を奪われていくのだった。



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