おかしいなと思った時には、もう形を変えていた。きらきらと宝石のような輝きを放っていたはずなのに、いつのまにかそれは見るのも恐ろしいと思うようになっていた。

暗い色をした彼の瞳を見つめると、怯えたわたしがこっちを見つめ返してくる。それが余計に彼の心を荒らすのだ。

「…さっきのは誰?」
「と、友達だよ?」
「ともだち、か」
「錫也…」

縋るように追いかけた声が震えた。掴まれた手首は痛いくらいの力で、だというのにわたしは「ああ、錫也おこってるなあ」と回らない頭で一生懸命考えた。
わたし、また怒らせちゃったんだ。そう思って謝ると、泣きそうな顔をするものだから、困ってしまう。どうしよう。
錫也は俯くと、どうして、と言った。

「ごっごめんね、錫也、ごめんね、悲しまないで」
「どうして…どうしてななしは俺だけのものでいてくれないんだ…」
「わたしは錫也のものだよ…!」

みしり、手首が嫌な音をたてた気がした。「いた、い、よっ」こわい、こわ、い。また錫也がいつもの錫也じゃなくなってしまう。
掴まれている手首に反対の手を添えると、ゆっくりと錫也が顔をあげた。

「もう、…そうだ、閉じこめようか?」
「…え?」
「誰の目にも触れないところに、ななしを閉じ込めてしまえば…」
「やっ、…だ!やめて!錫也!」
「それがいいな。そうしたら、誰もお前を傷付けられない、誰にもとられない…」

今日の錫也はいつも以上におかしい。何がこんなに彼をおいつめるのだろう?
わたしにはそれが分からない。いつから、錫也はこんなになってしまったんだろう。はじめは、こんなじゃなかった。幸せだったのに。少しずつ愛がしんでいく。
怖くて、悲しくて、いとしくて、涙がこぼれた。
錫也がわたしを好きであることは怖いくらい伝わってくるのに、わたしの想いは彼には伝わっていなかったのだろうか。

「大丈夫だよ、俺がちゃんと面倒を見てやるからな」
「…錫也は、それで安心出来るの…?」
「どうかな」

疲れたように笑う錫也は掴んでいた手首が赤くなっているのを見て、嬉しそうに口付けた。
ほんとうに、どこで壊れてしまったんだろう。きっと錫也は、わたしを閉じ込めてもまたきっと不安になるだろう。心からの笑顔をわたしに見せることはきっと、もうないのだろう。
ついにわたしの瞳から感情がこぼれ落ちた。

「痛かったか?ごめんな」
「…すず、や」
「赤くなっちゃったな…」

どうして、わたしの話をきいてくれないの。言えなかった言葉がまたわたしを苛む。
わたしたち、このままどこへ向かっていくの。



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