慣れないヒール、足に絡みつくスカート、片手にシャンパン。普段とは違う煌びやかな世界に気持ちがついていけない。思わず溜め息が出る。
今日はホウエンリーグが主催したパーティーに参加しているが、リーグに無関係と言ってさしつかえないわたしにはこれと言ってすることもない。ただ、この空間にいるだけ。
特にすることもなく、見知った顔も多くないわたしは退屈でぐるりと視線を泳がせた。そうすると広いパーティー会場で、あの横顔をみつけた。
こっち向け、強くそう念じる。今の私は気分はフウとランだ。こっち向け、こっち向け。テレパシーでも使えるんじゃないかしら。
リーグのお偉いおじさまとの話が終わって、彼、ダイゴがボーイからグラスを受け取った。
「あっ」
一瞬こっちを向きそうだったのに、すぐに他の来賓者との会話へ移ってしまう。本当におもしろくない。人をこんなところに呼んでおいて、なによ。
空いたグラスをボーイに預けて、人気の少ないバルコニーへ足を向けた。すると、彼も人ごみに疲れていたのか、やっと知った顔をみつけた。
「ミクリ!」
「やあ、ななし。今日は一段と美しいね」
「やだ、お世辞がうまいのね!褒めてもなにも出ないわよ」
「お世辞なんかじゃないさ」
「ねえ、リーグ主催のパーティーってすごく…その」
「つまらないだろう?」
「そうなの!わたしもう疲れちゃった。どうしてダイゴはわたしを呼んだのかしら」
「さあね、なぜだろうな」
ミクリはわたしを美しいと言ったけど、それは彼のほう。クスクス笑う姿すらとても美しい。ダイゴも整った顔をしているが、また違った綺麗さだ。
夜風になびくミクリの髪の先を追う。広がる中庭は素晴らしくて、さすがはリーグ、使う会場もなかなか。それでもダイゴへの憤りはおさまらない。
「それにね、ひどいのよ!自分で呼んだくせにわたしのほうには一度も来ないの。それどころか、気付いているかも怪しいわ!」
まさか。ミクリは肩をすくめるけれど、視線すら寄越さないのだからわたしを呼んだことを本当に覚えているかすら怪しいものだわ。
「ダイゴが君に気付かないなんて万が一にもないよ!」
「そんなこと、ないもの…わたしたち、別にどういう関係ってわけでも、ないし」
自分で言っていて悲しくなってくる。わたしは少なからず、期待していたのだ。だってそうでしょう?チャンピオンがリーグのパーティーに誘う女性よ。パートナーとして、誘うのよ。確かにわたしたちは友人として気の置けない仲ではあるけど、こういう時にはきっと好きな女性を誘うはず。
「わたし、期待していたのよ」
「…なにをだい?」
「ダイゴが…その、わたしを」
「聞いてみたらいいじゃないか」
「そんなことできないわよ!もう、ミクリのいじわる!戻るわ!」
彼女が中に戻ったのを確認して、入っていった扉と反対の扉に声をかける。彼のことだ、きっとこのやりとりも見ていたことだろう。
「ダイゴ、いるんだろう?」
「ふふ、ばれてたのかい」
「君も本当に意地が悪いね」
「ひどいなあ」
ダイゴは笑いながら中へと視線を向ける。「可愛いだろ?」嬉しそうにそういうものだから、本当にこの男は。
好きなんだから早く伝えてあげればいいものを、この男はななしが自分のことでやきもきしているのを見て、喜んでいる。
かわいそうに、ななしはそれに気付かずいつも振り回されている。今日だってそうだ。
本当に君の愛情は分かりにくくて、ゆがんでいるな。
「ななしが悲しんでいたぞ」
「知ってるよ、ずっと見てたからね」
「君は本当に性格が悪いな!」
「だって恋人になってしまったら、きっと僕のほうが彼女を好きで、尽くしてしまうよ」
「いいじゃないか」
「そんなの不公平だろ?」
にこにこ笑う彼に早く、彼女が気付けばいいのに。みているわたしの身にもなってほしいよ。
知らん顔の悪魔は、今日も彼女の心をそうして手に入れるのだった。