私の知る『ツワブキダイゴ』とは、感情の起伏の少ない、どこか冷めた少年だった。人間らしさがないというわけではない。
ただ、自分の手で何かを掴むのがうますぎるために心が満たされない、寂しい男。
その家柄も相まって、本当に彼の心に寄り添うものは少なかった。表面を気にして、へつらい、欲にまみれた者ばかり。そんな大人の中にひっそりと溺れていた。
友達になって彼の内面に触れるたびにちらりちらり、ほの暗い影を見た。

そんな男が、どういうわけだか彼女に対しては執着を見せた。
コントロールするのがうまいはずの感情を持て余して、距離を測りあぐねている。あの、ツワブキダイゴが!
それは、ダイゴにとって初めてのことだっただろう。

わたしが、ダイゴとななしが知り合いだと知ったのは彼女とルネへ行った帰りだった。
ダイゴは自分のテリトリーがきっちり決まっていて、そこに他人を寄せ付けるのをひどく嫌がる。だというのに、ななしの姿を見た途端、一瞬だけテリトリーの境界がひどくあやふやになった。
さらには、彼女とともにルネに行ったことを話すとぎらりと、瞳の奥に獰猛さをみつけた。おや、と思った。

「…ダイゴがまさか、あんな顔をするなんてね」
「あんな顔?」
「ずいぶん彼女が気に入ってるみたいじゃないか」
「…そう、だね」

ななしが歩いていったほうへ視線を向けて溜め息をつくダイゴは、わたしの知るダイゴではないようだった。聞いた話とは、ずいぶん違うじゃないか。
君はわたしに、ココドラを助けてくれた女の子の話を随分もやっと話していたけれど、ああ、これは、完全に。
胸の奥が喜びで熱くなる。

「ダイゴ、君は…」
「やめてくれミクリ」
「そうだな、無粋なことはやめておこう」

よかったと思った。わたしの友は他人に関わることをあまり好んでいなかったが、どうにかなりそうだと嬉しくなった。
ぽつり、小さな声で囁くようにダイゴの口から溢れたのは、とても弱々しい本音だった。

「君が、羨ましいな」
「…そんなことを言っていないで、誘ってごらん。あの子はきっととても喜ぶよ」
「そうかな」
「そうだとも」

わたしが見た様子では、彼女もダイゴを憎からず思っているように感じた。「…今すごく、かっこわるい」溜め息とともに吐き出された言葉があまりにもダイゴらしくなくておかしい。
堪えきれなくて笑うと、ぎろりと睨まれた。

「笑い事じゃあないよ、ミクリ」
「すまない…いや、本当によかったよ」
「全然よくないよ、こんなの初めてだ。本当にかっこわるい!」
「ダイゴ、君は今までができすぎていたんだよ。大丈夫。きっと君はこれから変わっていくよ」

面白くなさそうな顔をするこの男が、早く幸せになればいいのにと、心の底から強く思った。



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