ダイゴさんとあったのは、やっぱり偶然だったのだろう。
あれから半年がすぎ、空気は凍てつき吐いた息が白くなったけれど、あの一度以降ちらりとも姿を見ない。
ホウエンがいかに温暖な地とはいえ、冬になればそれなりに冷える。
この頃のわたしはホウエンしか知らなくて、シンオウほど寒いところがあることも知らなかった。上着にくるまってポケモンセンターを出て、次のまちへ向かう途中で後ろから声をかけられる。振り返ると、鮮やかなエメラルドが微笑んでいた。

彼はとても穏やかな人だ。穏やかで、その優しい表面からは想像できないような情熱を秘めている。

「ななし」
「…あ、ミクリさん」
「久しぶりだね、一カ月ぶりくらいかな?」
「そうですね、この間のコンテストのときでしたよね」

ミクリさんとは、彼が出ていたコンテストで知り合った。わたしは出場したわけではないが、ジュカインを見た彼に声をかけられたのだ。それから街で会うことがあると立ち話をするようになった。
どうやらミクリさんはこれからポケモンセンターに入るようだ。

「もう次のまちへ?」
「はい。ここには少し長くいたのでもう行こうかなって」
「それは残念だ。…そうだ、こんなところで立ち話もなんだ、久しぶりだしこのあと少しお茶でもどうだい?君の話を聞きたい」
「わたしはかまいません。回復するまで中のベンチで待ってます」
「すまないね」

ミクリさんのポケモンたちの回復が終わり、ジョーイさんがモンスターボールを持ってきてくれる。それを大事そうに受け取ると、ホルダーへとしまった。その仕草が本当に優しいから、わたしも嬉しくなる。
トレーナーはみんな、ポケモンを大事にしている人を見ると自分のことのように嬉しくなるだろう。

ポケモンセンターの近くにある喫茶店で温かいココアを頼んだ。ミクリさんはミルクティーを飲む姿も、とても様になっている。

「最近はどうだい?」
「うーん…」
「おや、あんまりだったかな?」
「…どうしたらいいか、わからなくて」
「悩み事かい?」
「悩みとかじゃないんですけど、これからどうしようなあって…」
「なるほどね…そうだ、ルネは行ったかい?」
「まだです」
「とてもいいところだよ、僕はとても好きなところなんだ」

ルネ。確か火山と海に囲まれたまちだ。ダイビングが出来る子がいなくてまだ行ったことはなかった。
確かジムもあったし、そこに行ってみようか。

「写真があるよ、見るかい?」
「すごい!綺麗!」

そこに写し出されていたのはルネを囲う、宝石のような碧だった。透き通る輝きの隙間にテッポウウオの群れが体を踊らせている。まあるい火山の入口は、こんなふうになっているのか。「うつくしいだろう?」そう言われて、言葉もなく頷いた。

「わたしの友達がね、エアームドの上から撮ったんだよ」
「すてき、…気持ちよさそうですね!」
「連れていってあげようか?」
「え?」
「私もこれから行こうと思っていたところだったんだ」

そうしてルネに行くことが決まったのだった。



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