連れていかれたのは、落ち着いた雰囲気のカフェだった。ミナモにこんな素敵なところがあるなんて知らなかった。ミナモはたくさんのお店があるから、なかなか自分の好みのお店に出会うのも難しい。
綺麗なステンドグラスがはめこまれた扉には華奢な作りのドアノブがついている。中に入ると、店内はお昼時をずれているからか慌ただしい様子はなく、ゆったりとした時間が漂っていた。
入口から離れた窓際の席に案内される。すごい、メニューまでおしゃれ。

わたしはしきりにダイゴさんがこれがおいしいからとすすめてくるケーキとドリンクがセットのものを頼んだ。本当に飲み物だけでよかったんだけどな。
可愛い店員さんに、ケーキセットとコーヒーを頼んでメニューを閉じるダイゴさん。店員さんはダイゴさんをぽーっとした表情でみつめてから、カウンターへ去った。

「さっきも言ったけど、本当に君のジュカインはよく育っているね」
「ありがとうございます」
「なにか特別な特訓でもしてるの?」
「いえ、そんな…わたしにそんなことはできませんよ」
「そっか、ななしちゃんはそれが普通にできるんだね。君が育てると、そんなにしっかり育つんだ。すごいことだよ」
「そ、んな!」

慌てるわたしを見てあまりにも優しく笑うものだから、照れてしまう。えへへと頼りなく笑い返す。追いかけてきた人にこんな風に言ってもらえるのは本当に本当に嬉しい。

「だ、ダイゴさん、は、」
「うん?」
「だんばる、ダイゴさんはダンバル…メタグロスは好きですか?」
「メタグロスは好きだよ。いいポケモンだよね。君は好き?」
「わたし、ですか?えと、はい。素敵だと思います。持ってはいないんだけど、頭もいいし、つやつやした体もすきです」
「うん、僕も」

言いたい。あの時のダンバルは元気ですかと。言えなくて誤魔化すみたいに紅茶を飲んだ。
彼の話は楽しかったけど、ほとんどポケモンのことか、わたしについての質問ばかり。彼についてはちらりとも紡がれない。
それはダイゴさんのポケギアが鳴るまで続いた。

「ごめん、そろそろ行かないといけないみたいだ」
「いえ、わたしこそ長く引き止めてしまってすみません。お茶ごちそうさまでした」
「僕の方こそ。本当にココドラがごめんね」

ダイゴさんはエアームドをモンスターボールから出すと、背中に乗って「またね」と言った。またね。それは、わたしとまた会ってくれるということだろうか?それとも、ただの社交辞令?ざわざわする気持ちをおしこめて、もう一度「ごちそうさまでした」と手を振った。
彼の姿がオレンジが滲み始めた空にちいさくちいさく溶け込んで、見えなくなるまで見つめてからポケモンセンターへと向かう。腰で揺れているボールを撫でて、もう一度だけ空を見上げた。

「またね、かあ」



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