ずっとずっとポケモンたちと旅に出るのが夢だった。
世界にはたくさんのポケモンがいる。空をとぶもの。海を泳ぐもの。陸を走るもの。生態が分かっていない、未知のポケモンもたくさんいるのだろう。
そんな世界を旅してみたい。自分の目で見て、触って、感じて、わたしの世界を大きくしたい。

この世界には、ポケモンが溢れている。テレビではリーグでのバトルやコンテストの様子などが見られたし、表現が違えど、どのポケモンもみんな活き活きとしていた。
すごいな、きらきらしてる。なにがすごいのかなんて全然分からない。でも、すごい。
綺麗にそらをとぶチルタリス。大きな体を悠々と動かすカビゴン。小さいのにパワー溢れるダンバル。どのポケモンもトレーナーと息がぴったりだった。
誰も彼もがその一瞬を楽しんでいた。
わたしの奥で何かが溢れかえるのを感じた。

中でも、わたしはとある少年のバトルに一際目を引かれた。ダンバルを使っていた彼。すごいな、わたしとそんなにかわらない年だろうに。ぴっと伸ばされた背筋や、ポケモンを見つめる優しい目にとても憧れた。
わたしもああなりたい。
とにかく、ああなりたかった。すごい、かっこいい、すごい。ただそれを繰り返す。幼いわたしの語彙力は乏しいもので、感動をうまく伝えることなんてできない。それでもお父さんもお母さんも優しく聞いてくれて、あなたも10歳になったらねと言った。
それは魔法の言葉のようであった。
だけど、たった8年ぽっちしか生きていないわたしには、あと2年はとても長かった。会ったこともない彼に、おいていかれると思った。

これが初恋だったかと聞かれると、きっとそうだったのだろう。コトキからほとんど離れたことのないわたしには、男の子の友達なんて数えるくらいしかおらず、恋と呼べるような気持ちを持ったことはなかった。
今思えば笑ってしまう話である。そんなわたしが、会ったこともない彼に恋にも似た憧れを抱いていたのだから。

それからの毎日はポケモンの本や、ホウエンのマップを見てすごした。ホウエンはとても広くて、そもそもコトキから離れないわたしはもちろん行ったことのないところのほうが多い。
フエンの火山はどんな感じなんだろう?海の博物館にはなにがあるんだろう?彼もここに訪れたんだろうか?考えるだけで楽しくて、何度も図鑑や育成の本のページをめくった。

お父さんはあまりいい顔をしなかったけど、ときどき一緒にくさむらへポケモンを見に行ってくれた。少しずつだけれどお小遣いもためて、ホエルコのお財布にいれて引き出しにしまった。大した金額ではなかったけれど、これだけあればどこにでも行ける気がした。

そうして大きくなり、10歳の誕生日はすぐそこまできていた。

毎日のようになぞったマップはくたびれていて、もう見なくてもどこになにがあるのか分かる。図鑑はあの人が使っていたポケモンを眺めすぎてページに癖がついめしまっている。わたしが彼を追いかけるまでの2年が、確かにそこにあった。
わたしは、旅に出る。そうして、あのひとの背中を追うのだろう。



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