背中を見るのが嫌いだった。それはわたしをひとりにする合図だから。彼が笑うのが苦手だった。嘘だって知ってたから。突然黙り込むのが悲しかった。あなたはわたしの好きな人じゃなくなるから。 嫌いなものがたくさんあって、わたしはあなたが好きなのに分からなくなる。どうしたらいいの? アレキサンダーの前でふわふわの髪をみつける。わたしが声をかけるより早く彼が振り向いて、にっこり笑った。
「ななしちゃん」 「…しゅうちゃん」
今からバイト?いつもの笑顔で問われて、ほっと息を吐く。よかった、いつものシュウちゃんだ。嬉しくて外なのにぎゅっと抱き着いた。頭の上でシュウちゃんが困ったみたいに笑ったのが分かった。優しく髪を撫でられて、それに胸が甘く痛くなる。「どうしたの?」今日はななしちゃん甘えんぼさん!ぎゅーっと抱き返されて、幸せで死ねるかもしれないと思った。
「んーん、シュウちゃんだなぁって思っただけ」 「はいはいあなたの王子ですよー」 「はい、王子です」
顔が見たくて少しだけ距離をとる。シュウちゃんはだらーっとしまりのない顔でわたしを見ていた。シュ「シュウちゃんだらしないなぁ」ウちゃん、あれ?わたしが口にするよりも先に低い声が後ろから聞こえてきた。振り向けば、翔くんがいやそーうな顔で立っていて。
「きゃ!翔くんのえっち!見ないで!」 「はは、シュウちゃんきもい」 「なんだよー翔くん優しくない!」
ふたりのやりとりを見ながら中へと入る。わたしもそろそろバイトの準備をしなくちゃ。 カウンターへ座るの背中ふたりと別れて、わたしはスタッフルームへと向かう。うん、もう嫌いじゃない。笑顔はまだまだ嘘もある。わたしの知らない人にもきっとなる。 でも、もうあの背中は嫌いじゃない。わたしを好きだよって、教えてくれてる。着替えてからホールへ行くと、えりちゃんを交えてぎゃんぎゃん騒いでいるところだった。
「ななしちゃん!」 「よーっすななしー」 「ななしちゃんおはよーう」
シュウちゃんが真っ先に気付いてくれる。それだけで嬉しい。えりちゃんときなこさんに挨拶をして、みんなに聞こえないようにシュウちゃんの耳元で内緒話のように言う。
「シュウちゃんだいすきだよ」
そんなのないよ。いつも途中で待っててくれるよね。 わたしをおいていかないで。 言えなかったもうひとつの気持ちは、いつか近い未来に聞いてくれるって信じてるよ。 だから、きっともうあなたで嫌いなところなんて、この先みつからないと思う。
(大好きです、しゅうちゃん。)
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