いもしない彼のことを思い出しては、胸の奥がずくずく痛む。痛くて痛くて、でもそれをやめることはできない。
ずっと一緒だという、なんの根拠もないことに自信を持っていたからかもしれない。彼がわたしの目の前から消えてしまったことは、わたしに重たくのしかかった。あの日わたしが引き留めていたら。そんな、ありもしないもしかしてを考えて目頭が熱くなった。もし引き留めていたら、彼は、レッドは、まだわたしの隣にいてくれたんじゃないかと自分を責め続け、傷口をえぐることをやめられない。
嫌な予感は日々強くなって、それでもわたしは彼を待ち続けた。


彼を見かけた人がいる、とグリーンに聞かされたのは、レッドがいなくなってから3回の春を迎えた頃だった。その少年がレッドを見かけたというのは、あのシロガネ山だった。そこに彼はあの日のまま、半袖で横にピカチュウを携えて立っていたという。
わたしはそこで、背筋が寒くなった。見つかったというのに、悲しみの涙が溢れた。ああ、そうか。そう、か。そこにいたんだね。だから帰ってこられなかったんだね。探してるんだね。
グリーンはわたしにそのことを伝えると、この暖かい日差しの中、コートを着込んでピジョットの背に乗った。「絶対レッド殴ってくる」言葉とは裏腹に、グリーンは笑顔だった。早くレッドに会いたいんだろう。ずっといなかった幼馴染みに、ようやく会えるのだ。その反応は正しい。
でもわたしは、悲しい顔しかできなかった。

「いってらっしゃい」

ばさり、羽ばたきで掻き消されたわたしの声。なんで、あのときわたしは。そこまで考えてやめた。無駄だからだ。


グリーンが帰ってきた。レッドも、ピカチュウたちも。わたしの予感は当たっていた。レッドは、冷たくなっていた。
当たり前だ。あんな雪山に半袖で平気な人がいるわけはない。死因は雪崩に巻き込まれたことだった。ピカチュウを守るようにぎゅっと抱いて、倒れていたらしい。グリーンはぽろりと涙を静かに流して、「馬鹿だよなぁ」力なく笑った。わたしは泣かなかった。
泣けなかったのかもしれないし、泣かなかったのかもしれない。わたしは感情をなくしたようになにも感じることができず、ただ目を閉じたまま冷たくなったレッドを見つめていた。


レッドのお葬式が終わってからしばらくして、わたしは黙ってマサラを出た。向かった先はシロガネ山。ヒビキくんという男の子がレッドと会ったという場所まできて、急に胸が痛くなった。レッドが、ここにいた。ヒビキくんに会ったとき、あなたはまだ本当に生きていたのだろうか。
ぺたり、ふわふわの雪の上に座り込む。ちらほらと漂う雪が世界の音を吸い込んでいく。
レッドはここで、何がしたかったんだろう。きっとヒビキくんのような、強い人を探していたんだね。
びゅっと強い風が吹いて、目を閉じた。

「れっ、ど?」

目を開いた先には、マサラに帰ってきていた、レッドと同じ姿があった。違うのは、立ってわたしに微笑みかけている。どうして?そう聞くよりも先に彼が口をひらいた。「ごめん」そんなことが聞きたいんじゃないよ。

「泣かないで」
「え?」
「泣かないで、ななし」
「泣いてなんか、」

ない、そう言いたかったのに、いつのまにか涙が頬を伝っていた。レッドがぎゅっとわたしを抱き締めて、また「ごめん」と言う。「ねぇ、」いろいろ聞きたいことがあったのに、レッドは帰れと言った。少しずつ瞼が重くなってきて、怒ったような顔が見えたけど、わたしはそれも嬉しくて、レッドに抱き付いたまま、ゆっくりと、目を閉じた。


どうか、わたしもあなたと一緒につれていって





(レッドさん幽霊説から)

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