またまたぁ、へらりと笑った彼に、いつものように冗談だよと言えなかった。言いたかったけど、全部ほんとだったから言えなかった。笑ってる秀とは正反対に、全然笑ってないわたし。途中で気付いたみたいで、真顔で「…まじで?」バレないように内緒話でもするかのように、呟いた。まじです。

「えっ、…いつか、ら?」
「3ヶ月前」

おかしいなとは思ってたの。もともと定期的だったのに、急にぷつりと途切れたみたいになくなった。体は重くだるくなったし、眠たくなった。ときどきとてつもなく気分が悪くなって、食欲がなくなった。まさか、まさかまさかまさかまさか。自分を疑った。確かめるのが怖くて先伸ばしにした。いつのまにか2ヶ月も経っていた。怖くて怖くて、だったら安心しようって、検査薬を買いにいった。いつもは入らない薬局で、たぶん誰かに見られたくなかったんだと思う。
その日の内に試してみたら、見事に陽性だった。終わった。これは、さすがにだめだ。だめ、だ。言わなくちゃ、秀に言わなくちゃ。そう思うのに言えなくて、いつのまにか、また1ヶ月が経っていた。考えて考えて、もう戻れないと気付いた。

「秀、話があるの…いい?」
「なに?」

食器を洗ったあと、ソファーに座ってテレビを見てる秀に声をかけた。テレビを消して、隣に座った。

「なに、どうしたの」
「あのね、生理、こないの」
「またまたぁ」

秀はへらりと笑って、固まった。「…まじで?」まじです。答えると一気に青ざめていく。わたしもそうだった。絶望した。だってわたしたち、まだ大学生だ。成人したのだってついこの間だし、とても子供なんて養っていけない。だから、秀の反応も当然だ。でも悲しかった。秀には、喜んでほしかった。わがままなのは分かってる、自分は絶望したくせに、秀には喜んでほしいだなんて。「しゅう、」わたし、一人で育てる、から「ちょっと待って」わたしの言葉を遮ると、テーブルの上に置いてあった携帯を片手にソファーを立った。
キッチンのほうへ行くとぼそぼそとした声が聞こえて、何を言っているか分からなかったけど、誰かに電話をしているようだった。ぱちん、と携帯を閉じる音が聞こえて、顔をあげた。キッチンにいる秀と目があって、その目がすごく冷めているように見えて怖くなった。
わたしたちは、もしかしたら終わりなのかもしれない。2年も付き合ってるのに秀が信じられない自分がいたことと、今の状況に涙が出てきた。彼がまたソファーに座って、言った。

「あんたまさか、逃げる気じゃないでしょうね!そんな甲斐性のないことしたらもううちには入れないからね!」
「え、え?」
「って、うちの母親が」
「おばさん、が」
「がんばろ」
「…え」
「俺も頑張るから、がんばろ、一緒に」

いいの?わたし、わた、し。そこからは何も言えなくなった。

「けっこん、しよ」

わたしはただ頷くだけで、止まらない涙をどうにか抑えようと頑張るのだけど、でも嬉しくて、嬉しくて、また新しい涙が出てくる。

「しゅ、う、わたし、わたし、」
「うん、」

秀は嗚咽にまみれて言葉にならない言葉の破片を丁寧に拾い集めてくれて、ひとつずつ相槌をうってくれる。外ではうるさくて、でも本当は少しシャイな、わたしの大事な人。





ずっと一緒に、いてね

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