わたしには嫌いなものが3つある。どうしても好きになれないものが、3つ。
ひとつは花粉。春になるたびに頑張りやがって毎年まいとし、死にそうなこっちの身にもなってほしい。今年は今まででいちばんひどいかもしれない。
次にピーマン。あの苦みは好きになれない。いくら細かく刻んであってもじんわり口の中に残るあの苦みが駄目。
最後に、錫也。いつもにこにこしててわたしのことを知ったふりをする。「お前のことならなんでも分かるよ」が錫也の口癖。そう言ってわたしの髪を撫でるのが小さいころから決まり事かのように続けられてきた。実際わたしよりもわたしのことを知っていたんじゃないかと思う。
なんでも見透かすみたいな錫也がどうしても苦手だった。

「だから言っただろ、あいつは駄目だって」
「る、さい」
「なんであんなやつのために泣くんだよ」
「う、る…さい、」
「花粉症で大変なのとかピーマンが食べれないこととか、本当は犬が怖いのとかあいつは知らないじゃないか」

いいの、知らなくて。知らなくていいのに、そうやって錫也は知っていく。かっこわるくて可愛くないわたしばっかり知っていく。
ベッドの上に蹲るわたしは小さくて惨めだ。「すず、や」呼ぶ声は擦れてて、なのにちゃんと届いたみたい。ぎしりとベッドが泣いて冷たい体が温かい彼に包まれた。苦しくて悲しくなる。所詮錫也はわたしの「お兄ちゃん」みたいなもので、それ以上にはならない。

「お前が泣くのは見たくないよ」
「…、」
「ほら、もう泣き止めよ。クッキー焼いたから食べよう、な?」

宥めるみたいに背中を跳ねるその掌にはもっと別に守るものがあって、それはきっとわたしではない。「すず、」どうしてこんなに優しいんだろう。離れていく体を繋ぎ留めたくて震える手を彼の背に回した。すると「わ、」びっくりしたみたいな声が耳に届く。
困った声が「どうした?」心を締め付けるけど離れられなくてまたぐすんと鼻をすすった。

「ほら、離れないとクッキー食べれないだろ」
「や、」
「やじゃないだろ?いい子にしないと哉太に笑われるぞ」
「…いい、」

わがままなのもさっきと矛盾してるのも分かってる。構ってほしくないのに気にしてほしい。ただ、愛してほしいだけ。





どうしても好きになれないものが3つ。花粉とピーマンと、どうしようもないわたし。

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