「ちょっとセンパイ!結局ななしちゃんにチョコもらえなかったんだけド?!なにしてたわケ?!」

バレンタインも終わった月曜日。朝早くから呼び出された隠し部屋でお茶を用意していると、飛び込むようにして夏目くんが入ってきた。
予想通りとはいえ、随分荒れてますねえ。
夏目くんは昔からずっとななしちゃんのことが大好きだし、当然と言えば当然のことなんですけど。
とは言え、ななしちゃんにも事情があった。夏目くんの気持ちを思えば報われてほしいけれど、ななしちゃんの嫌な記憶を思い出させるようなこともできない。
ぷんぷんと怒る夏目くんが納得してくれるかは怪しいところだけど、分かってもらうしかない。

「ななしちゃんも大変だったんです……」
「そういうこと聞いてるんじゃないんだヨ!うまいことななしちゃんにチョコ用意させるのがセンパイの仕事でショ!」
「そうだったんですけど…」

自分のいない間にななしちゃんが嫌な思いをしていたと知って、冷静でいてくれるだろうか。優しいこの子はきっと傷ついてしまうだろう。
なんと言ったらいいか分からないまま口を開くわけにもいかず、曖昧に微笑む。
夏目くんは黙って椅子に座った。

「とりあえず、お茶飲みませんか?」
「………」
「ななしちゃん、ほんとに大変だったみたいなんです。内容は、ちょっと。夏目くんに話してもいいか確認するの忘れちゃったので言えないんですけど…」
「ボクのせイ?」
「いえ。それはありません。それはそれで嫌でしょうけど」
「そりゃ嫌だヨ。ななしちゃんがボク以外に傷つけられるなんて許せなイ」
「歪んでますねえ」
「うるさいナ」
「そんなこと言っても夏目くんがななしちゃんを傷つけないのは知ってますよ…いたっ?!」

照れた夏目くんは無言で僕の脛を蹴った。
夏目くんに話さないでとは言われていないけれど、ななしちゃんもぺらぺら話されるのはいい気分じゃないだろう。
それに内容が内容なだけに、夏目くんの不機嫌も天井知らずでしょうし…。
うん、僕の足のためにもだまっておいたほうがいいやつですね。

「やっぱり夏目くんがななしちゃんに好きになってもらうのが一番早いと思います」
「それができないから困ってるんだヨ、このポンコツモジャメガネ…!!」



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