3年生。初めて夏目くんと違うクラスになった。
むしろ、学年6クラスあって1、2年と同じクラスだったほうがすごいんだろうけど。
それでわたしはようやく気付いてしまった……!
わたし、夏目くんとずっと一緒にいるから彼氏どころかお友だちもできないのでは?!
いやなんかずっとそんな気はしてたけど!
夏目くんはわたしのことを大好きだと言って憚らないので、ま〜そんなイケメンが側にいる女にどうしても!って突撃する人がいるわけないよね…。
いたら勇者だよ。

「ということでよっちゃん。わたしは夏目くん離れをしようと思います」
「むりだと思うよ?」
「なんでそんなこと言うの?」
「夏目くんのお世話なしで生きていくにはこの世界はななしちゃんには厳しすぎると思う」
「なんでそんなこと言うの…?」

わたしの決意はばっさりと切り捨てられた。
よっちゃんはにこにこ笑いながら卵焼きを口に入れるついでに、なんてことないように言うけど、わたしにとってはかなりの大決心だった。
無理じゃないよ…!わたしだってひとりでもどうにかなるよ!
さすがに最上級学年になったこともあり、夏目くん絡みで迷惑を被ることもほとんどなくなった。
未だに1年生には「逆先先輩とどういう関係なんですか?」「付き合ってるんですか?」「推せるんで早く付き合ってもらえませんか?」とか聞かれるけど。
どういうもこういうもないよ…?
ていうか推せるってなに??
夏目くんは夏目くんで笑顔で何も言わずにぼかすものだから、噂だけが独りでに歩き回って、ついには結婚まで秒読みらしいという話がわたしのところまで回ってきた。
どういうことだってばよ。

「わたしも彼氏ほしいんだよ!」
「ななしちゃんには夏目くんがいるじゃない」
「よっちゃん、自分は山田くんとうまくいってるからって…!」
「うん!今日も部活終わるの待って帰るんだ」
「裏切り者ー!知ってるやい!」

箸を握りしめて力強く宣言するけど、それも夏目くんがいると軽く流されてしまった。
ていうか、そう。そうなのだ。よっちゃんは2年生に上がる直前に山田くんに告白されてわたし調べラブラブカップルランキングの堂々の一位なのだ…。
毎日図書室で勉強しながら山田くんの部活が終わるのを待って、ふたりで帰るくらいに仲がいい。
裏切り者〜〜〜!

「でも、実際むりだと思うよ?夏目くんがななしちゃんを大好きなのはほんとのことだし」
「う」
「夏目くんみたいなイケメンに好かれてる女の子、どう頑張っても振り向かせられると思わないよね」
「うう」
「そもそも夏目くんがななしちゃんに近付かせるわけないじゃない」
「うわーん!夏目くんのばかばか!別に彼氏ができても一番のお友達は夏目くんとよっちゃんだよ!夏目くんの寂しがりやさん!」
「ありがとう。でもそれ夏目くんに言わないほうがいいよ」

よっちゃんの言葉のナイフがぐさぐさと突き刺さる。
なんだかんだ意地悪をいいつつも、夏目くんがわたしのことを大事に思ってくれてるのは知ってるし、わたしも大事に思ってる。
でもそれだって、いつまで続くか分からないじゃん。
夏目くんは自他ともに認めるイケメンで、わたしのようなちんちくりんがおまけでついてると分かっていても告白されるくらいモテる。
いつ彼女ができて一緒にいられなくなるかも分からないのに、ずっとお互いで足を引っ張りあうのもどうかと思う。
いや、足引っ張ってるのはわたしなんだけど…。こないだも傘忘れて入れてもらったし……。

「夏目くん、過保護すぎるんだよなあ。それに甘えてるわたしがいうことじゃないけど…」
「そうかな?好きな子には普通じゃない?」
「うーん」
「ななしちゃんがそう思いたいならいいと思うけど。でも、迷惑かどうかを考えるのは夏目くんだよね?」
「それは…まあ」
「ななしちゃんのお世話は夏目くんの趣味みたいなものだし、そこは気にしなくていいんじゃないかな。むしろ迷惑してるのななしちゃんだし」
「わたし?」
「夏目くんがもう少し自重すればななしちゃんがやっかまれることもないでしょ。夏目くんはそれも分かっててやってるんだし」
「…でも、それで夏目くんと仲良くできないほうが、やだな」

大好きな夏目くんが、わたしに迷惑がかかるからと離れていったら、絶対に寂しい。
彼氏がほしいと自分から一人立ちしようとしてる人間の言葉とは思えない図々しさだけど。

「びっくりした。ななしちゃんもそんなこと考えてたんだ」
「もー!わたしだってそれくらい考えます!」
「うそうそ、ごめんね。でもそうだよね、夏目くんと一緒にいないななしちゃんって、もう考えられないかも」
「実は、わたしも」
「やっぱり?」

未来のことをどんなに考えても、一瞬も夏目くんが関わらない自分は考えられなかった。
進学しても一緒にでかけたり、大人になっても飲みに行ったり、お正月とかお盆とか、うちのリビングでこたつに入ってみかんを食べたりテレビを見たり。時々は喧嘩して、でも夏目くんが決まり悪そうにごめんねって折れてくれる。そんな姿が見える。

「もう家族みたいなものだから、夏目くんのいない生活は考えられないなあ」
「あはは、ななしちゃんらしいなあ。それもやっぱり夏目くんには言わないほうがいいよ」
「なんで?」
「なんでも。とにかく、ななしちゃんは彼氏作るの諦めたほうがいいよ」
「それは話が違うので…」
「めげないね…」

今後の目標は、夏目くんを大好きなひとを彼氏にするに変更!



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