彼女が悲しそうに「…ありがとう、ございました、」と頭を下げてきたのでなにかと思った。「どうした?」と聞き返すとますます悲しそうな顔になってぽろぽろ涙を流しはじめてしまった。 どうしたらいいか分からなくてとりあえず落ち着かせようと、人気の少ない空き教室へ連れていく。窓際の椅子に座らせて「どうした?」もう一度聞いた。ついには、えっえっ、と嗚咽をもらしはじめてしまう。
「ど、どうしたんだよ、ほんと」 「あの、もう、いいでんす、」 「いくないだろう」 「いい、…い、です」
首を振って頑なに言いたくないと主張する彼女の両肩に手をおいて前から話し掛けてやっても駄目。はらはらと零れる涙を拭ってやれば余計に零れ落ちてきた。 その悲しい波は俺のほうまで伝わってきて心の奥のほうを黒く染める。好きだと思ったから、泣かせたくない。理由は聞きたい。なぜありがとうと言っているのに悲しそうなのか。それくらい教えてくれたっていいと思うし、聞く権利だってあるだろう。
「会長と、ね、付き合うの、やめ、る」 「は?」 「会長が、わたしを好きじゃないなら、付き合うの…やめたほうがいいんじゃないかっ、て」
そこまで言ったら止まりかけていた涙がまた零れてきて、ああ困ったなあと頭のどこかで慌てたような自分が思ったが、同時にひどく苛立った。 どうして、だ。いらいらいら。それなりに普通に付き合ってたじゃん。好きとかこそ言ってはないものの、手だって繋いだし、そんなこと言う要素ないじゃん。
「だから、なに」 「もう、わたしなんかに付き合ってくれなくてい」
いです、そう繋がるはずだったんだろう言葉を遮ってぎゅっと抱き締めた。小さく「あっ」と悲鳴のようなものが聞こえたけど無視して怒鳴った。腕の中で華奢な体が震えた。
「馬鹿言うな!」 「っ、」 「好きじゃなかったらこんな長いこと付き合ったりしねぇだろ!」 「だって、」 「自分だけで勝手に答え出してんなッ」
震えた声でゆっくりと「かいちょ」名前を呼ばれて体を離す。涙は引っ込んでいて、ためらうように開かれた口からは溜め息の出るような質問が飛び出した。
「わたしのこと好きなんです、か」 「…すきだよ」 「う、そだあ…」 「嘘じゃねーし」 「だって、わたしが会長好きだから、」 「最初だけだろう」
黙らせるように赤い唇に噛み付いて、にやりと笑ってやる。
「びっくりすぎて涙とまってるんですけど」 「お前に泣かれるとどうしたらいいか分かんなくなるよ」
(ハッピーエンド) (ぬい誕まであと1日)
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