(ヒロインいません)
(山田視点)


来月に行われる文化祭。我がクラスは教室を使っての簡易劇を行うことになっている。
表向きは日本史の学習発表ということで1学期に習った範囲を面白おかしくダイジェストする形だ。
男子は教室で大道具を、女子は被服室で衣装をリメイクしに行っている。
当然、女子がいなくなった隙に男子だけで話すことといえば、まあお察しだろう。
手を止めないまま、誰かが声をあげた。

「なあなあ、うちのクラスでどの女子が一番可愛いと思う?」
「ななしちゃん」
「ごめん逆先は黙ってて、話進まん」

逆先お前ほんとに揺るぎねーな?!
手先の器用な俺と逆先は細かい作業をテーブルで向き合ってしている。
ちらりと視線を投げると、手元から目線もあげずマジの顔の逆先が。
マジ顔イケメンだなちくしょう。
脳内でななしやまが「さすが夏目くんだよねー」とのんきに笑っている。

「ハ?ななしちゃん以外にいないでショ」
「ごめんほんと逆先は黙ってて」
「ななしちゃん、可愛いでショ」
「圧が強いんよ」
「かわいいかわいい」
「ハ?」
「切れるんかい」
「えー…じゃあ可愛くは…ない…?」
「目が悪いノ?趣味が悪いノ?喧嘩売ってるノ?」
「どっちにしろ切れるんかい!」

理不尽か…?
おっま、ほんとななしやま関わるとおかしくなるのやめろ!

「ボクのななしちゃんだヨ」
「とらねーよ、いやそもそも逆先のじゃねーな?」
「もうやだこの子、怖い」
「お前のそれ対応に困るんだよ」
「いや同意したらしたで怒るししなかったらしなかったで怒るのかよ!退路ないんだよ」
「詰みゲーすぎる」
「悪魔」
「当たり前でショ。ななしちゃんのことそういう目で見たら呪うかラ」
「お前のそれ洒落になんねーんだよ」
「もうトイレと友達になりたくない」
「俺足の小指ぶつけた」
「1時間目から6時間目まで毎回当てられた」
「思ったより被害者多いじゃんよ…」

ななしやまにとち狂ってる逆先は、褒めれば褒めたで切れるくせに、同意しなければしないでめんどくさい。
まあななしやまは確かに明るくて優しいし可愛いから、そういう気になるやつがいるのは仕方ないような、なくないような…。
逆先の牽制がすごくて「ななしやまに手を出すのはやばい」って学校中に広まっているとは言え、好きになるやつはなるからなあ。
それももう口にするような命知らずはうちのクラスにはいないけど。
うちのクラスのやつらは序の口で、他のクラスのやつらが大変な目にあってるらしい、と風の噂で聞いた。
あいつら、ななしやまって優しいし可愛いよな〜!って話してただけだぞ逆先…!
お前もうんうん分かる分かるみたいな顔で頷いてたじゃんよ…。
でもそれとこれとは話が違うらしい。めんどくさい。
とりあえずななしやまは可愛い(逆先枠)ということにして、話が盛り上がったところで委員長が首をかしげた。

「そういえば逆先くんってななしやまさんのどこが好きなの?」
「うわ、お前勇気あるな?!」
「勇者」
「勇者だ」
「勇者、英語の宿題見せて」
「勇者じゃないし見せない」
「無念…」
「で、逆先どうなんだよ」
「どうっテ?」
「だからななしやまのどこが好きなのかって話!」
「全部」

逆先はさらっとなんでもないように答えた。むしろそれ以外ある?くらいの態度だ。
出た〜、そう、そういうやつだよ。お前はそういうやつだよ。そんなことは分かってんだよ!見てれば!分かる!
そうじゃなくてさ〜、こう、こういうときが可愛いとかキュンとするとかあるだろ?!
全員が全員逆先を生ぬるい目で見る。

「いやよく全部とか言えるな」
「すげー…俺には無理」
「強いて言うならとかないの?」
「あるけド…え、言うノ?ほんとニ?」

さすがの逆先も人畜無害な委員長には強く出られないのか戸惑っている。
これは…押せる…!

「えっ、あんの?なになに気になる」
「あんまりななしちゃんの可愛いとこ教えたくないんだけド」
「そこをなんとか!」
「聞きたいので教えてください」
「………とコ」
「え?聞こえない」

さすがに恥ずかしいのか、ごくごく小さい声で呟く。
もはや誰も作業を進めておらず、身を乗り出して逆先の言葉を待っている。

「だかラ、………ボクが話しかけるとすごく笑顔になるとコ…」
「は?可愛いか?」
「呪うヨ」
「逆先がだよ!」
「それはそれで呪ウ」
「山田が悪い」
「山田くんが悪い」
「味方いなさすぎじゃない?え?」

誰も助けてくれないじゃん。
いやでも考えてみろよ、好きな子が自分と話すの喜んでるんだぞ、あの逆先が!
可愛いじゃん?!ちょっとキュンとしちゃったよ俺。
女だったら好きになってたよ。男だからならないけど。

「可愛くなイッ!あんまり気持ち悪いこと言うと呪うヨ!」
「呪いめっちゃ物理じゃん、ていうか心読むのやめて」

照れてる逆先は俺の頬を力一杯つねりあげる。
力が強い…。

「ななしやま愛されてるなー」
「ボクよりななしちゃんを好きなやつはいなイ」
「だろうな…」
「だろうよ…」

そういうやつだよお前は…。



×