(ヒロイン喋りません)
(山田くん視点)


「…ということで、夏目漱石はI LOVE YOUを愛してるとそのまま訳すのは日本人には合わないと言って、まあ月が綺麗ですねくらいの遠回りがいいと言ったわけだな。欧米人はストレートに言うけど日本人はかなり奥手で、特に当時はストレートに言うのははしたないって考えだったからな。こういうのは自分ならどうするかって考えるのも楽しいもんだぞ」

そう区切ると、タイミングよくチャイムが鳴った。先生は教科書を閉じてチョークを置くと「今日はここまで」と教室を後にした。
この先生はとてもゆるいが話が面白いので、国語の授業なのに眠そうにする生徒は少ない。
朝練で疲れた体での座学はきついものがあるけど、俺ですら起きてるからな。
それでも授業が終わればどっと疲れが押し寄せたので、ノートを閉じてぐっと伸びをした。

「I LOVE YOUか〜」
「月が綺麗だとなんで愛してるなんだろ?」
「綺麗なものを一緒にみたいのは好きな人だからじゃない?」
「ロマンチック!」
「ねえねえ自分ならなんて訳す?」

女子たちがきゃっきゃと話すのを聞いて、自分なら、と考えた。
自分なら、か。

「好きな相手に思うことってことだよね?」
「わたしならまだ帰らないって訳す!」
「分かる、できるだけ一緒にいたいよね!」
「わたしは…目が合いましたね、とか…かな?」
「え、なんで?」
「ずっとあなたを見てます、みたいな……」
「いい!めっちゃエモいじゃん!」

可愛いなー、恋してる女子。なんで女子ってこんなかわいいんだろうな〜。
身近な恋してるやつ代表を思い出してつい遠い目をしてしまう。
違う、違うぞ俺。怖いのは逆先だけだから…普通に恋してる男は全然怖くないから…。

逆先、逆先かあ。ななしやまが関わらなきゃいいやつなのになあ。ツンデレだけど。
まじでななしやまの何があそこまで逆先をおかしくさせるんだろうなあ……確かにななしやまは可愛い方だし、逆先が転校してくるまでは結構狙ってるやついたし、好きになるのは分からなくもないけど。
そういえば高橋大丈夫だったかな。もうななしやまには関わるなよって言っておいたけど…。それで見逃してもらえたとも思えないよなあ…。

「逆先なら『絶対逃がさない』とかだろうな…」

いや、誰にも触らせない、とかか?
ぽつりと口からこぼれてしまったそれは紛れもなく本心で、そして悪魔召喚の呪文だった。

「うン、よく分かってるネ」
「ごめんなさい」

出た〜…いや、俺たち席離れてんじゃん!聞こえないじゃん普通に!?
ぽんと肩を叩かれ、ぎこちなく振り向けばにっこり笑った逆先がいた。
いやホラーだよ。

「でも残念」
「え、違うの?」
「うン」
「何?」

怖いものみたさ100%で聞けば、友達と話をしているななしやまをちらりと見てーー

「ボクのもの」

と言った。
いやちげーわ、まだ逆先のじゃねーわ。くそっ、さっさと爆発しろ!
あとななしやまはちょっとくらいこの重さに気付け!



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